[O-HT-01-4] 術前フレイルは後期高齢心臓手術患者における退院時日常生活活動能力低下の予測因子である
Keywords:心臓外科術後, 高齢者, ADL能力
【はじめに,目的】
近年,心臓手術においては手術技術や周術期管理の進歩により,従来では手術対象とはならなかったハイリスクな高齢患者においても積極的な対象となっている。心臓手術後の入院期リハビリテーションは術後合併症発生や身体機能低下を予防し,術前の日常生活活動(activities of daily living:ADL)能力を早期に再獲得することが主要な目的であり,近年では術後早期離床やfast track recoveryが定着している。しかし,後期高齢者や術前フレイルを呈する症例においては,退院時にADL能力低下をきたす症例をしばしば経験する。
術前フレイルは心臓手術患者の術後合併症発生率や死亡率を増加させ術後在院日数を延長させると報告されているが,退院時ADL能力低下に着目した報告は極めて少ないのが現状である。したがって,後期高齢心臓手術患者における退院時ADL能力低下に術前フレイルが影響するか否かを明らかにすることを本研究の目的とした。
【方法】
2013年4月から2016年6月にかけて当院にて待機的心臓手術を施行した後期高齢心疾患患者連続633例のうち除外基準に該当する87例(術前からのADL能力低下(Barthel Index(BI)100点未満)69例,術後脳梗塞発症11例,術後急変による低酸素脳症1例,術後腸閉塞発症により他院搬送1例,術後死亡5例)を除く546例(平均年齢79±3歳,女性46%)を対象とした。
退院時ADL能力低下はBIの最小変化値である5点以上の低下と定義し,対象を術前から退院時にかけてADL能力が低下した低下群50例および非低下群496例に分類し,両群における患者背景因子をカイ二乗検定および対応のないt検定を用いて比較検討した。また,退院時ADL能力低下を従属変数ならびに両群間で有意差を認めた項目を独立変数としたロジスティック回帰分析を実施し,術前フレイルが退院時ADL能力低下の予測因子となりうるか否かを検討した。なお,術前フレイルは介護予防チェックリストを用いて評価し,4点以上をフレイルと定義した。統計解析はSPSS Statistics Version 21.0(IBM)を使用し,すべての統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
本研究における退院時ADL能力低下症例は50例(9%)であり,術前から退院時におけるBIの平均変化値は-12±8点であった。低下群は非低下群と比較して年齢,糖尿病・術前フレイルの既往,手術時間,人工心肺時間,人工呼吸器時間および術後せん妄の発生率が有意に高値であり(p<0.05),術後歩行開始日数,集中治療室滞在日数および術後在院日数が有意に延長し,自宅退院率が有意に低値であった(p<0.05)。
ロジスティック回帰分析において抽出された退院時ADL能力低下の予測因子は,年齢(OR:1.19,p<0.01),手術時間(OR:1.01,p<0.05),集中治療室滞在日数(OR:1.44,p<0.01),術前フレイル(OR:2.54,p<0.05)であった。
【結論】
術前フレイルは後期高齢心臓手術患者における退院時ADL能力低下の予測因子である。
近年,心臓手術においては手術技術や周術期管理の進歩により,従来では手術対象とはならなかったハイリスクな高齢患者においても積極的な対象となっている。心臓手術後の入院期リハビリテーションは術後合併症発生や身体機能低下を予防し,術前の日常生活活動(activities of daily living:ADL)能力を早期に再獲得することが主要な目的であり,近年では術後早期離床やfast track recoveryが定着している。しかし,後期高齢者や術前フレイルを呈する症例においては,退院時にADL能力低下をきたす症例をしばしば経験する。
術前フレイルは心臓手術患者の術後合併症発生率や死亡率を増加させ術後在院日数を延長させると報告されているが,退院時ADL能力低下に着目した報告は極めて少ないのが現状である。したがって,後期高齢心臓手術患者における退院時ADL能力低下に術前フレイルが影響するか否かを明らかにすることを本研究の目的とした。
【方法】
2013年4月から2016年6月にかけて当院にて待機的心臓手術を施行した後期高齢心疾患患者連続633例のうち除外基準に該当する87例(術前からのADL能力低下(Barthel Index(BI)100点未満)69例,術後脳梗塞発症11例,術後急変による低酸素脳症1例,術後腸閉塞発症により他院搬送1例,術後死亡5例)を除く546例(平均年齢79±3歳,女性46%)を対象とした。
退院時ADL能力低下はBIの最小変化値である5点以上の低下と定義し,対象を術前から退院時にかけてADL能力が低下した低下群50例および非低下群496例に分類し,両群における患者背景因子をカイ二乗検定および対応のないt検定を用いて比較検討した。また,退院時ADL能力低下を従属変数ならびに両群間で有意差を認めた項目を独立変数としたロジスティック回帰分析を実施し,術前フレイルが退院時ADL能力低下の予測因子となりうるか否かを検討した。なお,術前フレイルは介護予防チェックリストを用いて評価し,4点以上をフレイルと定義した。統計解析はSPSS Statistics Version 21.0(IBM)を使用し,すべての統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
本研究における退院時ADL能力低下症例は50例(9%)であり,術前から退院時におけるBIの平均変化値は-12±8点であった。低下群は非低下群と比較して年齢,糖尿病・術前フレイルの既往,手術時間,人工心肺時間,人工呼吸器時間および術後せん妄の発生率が有意に高値であり(p<0.05),術後歩行開始日数,集中治療室滞在日数および術後在院日数が有意に延長し,自宅退院率が有意に低値であった(p<0.05)。
ロジスティック回帰分析において抽出された退院時ADL能力低下の予測因子は,年齢(OR:1.19,p<0.01),手術時間(OR:1.01,p<0.05),集中治療室滞在日数(OR:1.44,p<0.01),術前フレイル(OR:2.54,p<0.05)であった。
【結論】
術前フレイルは後期高齢心臓手術患者における退院時ADL能力低下の予測因子である。