[O-KS-10-4] 高齢者の膝伸展筋力に骨格筋の質的変化が及ぼす影響
―筋輝度だけでなく骨格筋細胞外液比が関連する―
Keywords:膝伸展筋力, 筋輝度, 骨格筋細胞液
【はじめに,目的】高齢者の筋力発揮には,骨格筋の量的因子だけではなく非収縮組織の増加といった質的因子が関連する。骨格筋の超音波画像上で筋内脂肪・結合組織量の増加を表す筋輝度は,筋厚とは独立して筋力発揮に関連することが報告されて以降,多くの研究で用いられてきた。一方,近年では,生体電気インピーダンス分光法(BIS法)を用いて評価した筋の質的変化が筋力に関連することが報告されている。BIS法は骨格筋組織内の水分量から細胞内液量(ICW)と細胞外液量(ECW)に分類し評価する。ICWは骨格筋細胞,ECWは筋細胞外区画を表すことから,骨格筋細胞外液比(ECW/ICW比)の高値もまた筋内浮腫といった非収縮組織の増加,すなわち筋の質的低下を示す指標として重要となる。このように異なる手法での筋の質的変化が報告されているが,筋輝度とECW/ICW比を同時に計測し筋力との関連を検討した報告はない。本研究の目的は,高齢者の筋力発揮における筋厚と筋輝度,ECW/ICW比の関連について明らかにすることである。【方法】地域在住健常高齢女性181名(年齢74.0±5.0歳)を対象とした。筋力測定器を使用し,端座位膝屈曲90度位にて右側の最大等尺性膝伸展筋力(Nm)を測定した。また,超音波画像診断装置(GE Healthcare社製)を用いて,安静背臥位における大腿中央部の横断画像を撮像した。先行研究と同様に,大腿四頭筋の筋厚は大腿直筋・中間広筋の和とした。筋輝度は大腿直筋を解析対象とし,グレースケールにて算出した。ECW/ICW比は,BIS法を搭載したインピーダンス計(SKメディカル社製)を用い,背臥位にて3~5分の安静後に計測し,先行研究に準じて算出した。さらに,膝関節痛の有無について聴取した。統計解析には,従属変数を膝伸展筋力としたステップワイズ重回帰分析を用いた。独立変数は,モデル1では筋厚・筋輝度・年齢・BMI・疼痛の有無,モデル2ではECW/ICW比を追加して,膝伸展筋力との関係を検討した。【結果】膝伸展筋力は92.8±26.6Nm,筋厚3.18±0.6cm,筋輝度97.0±10.8,ECW/ICW比0.75±0.23であった。重回帰分析の結果,モデル1では筋厚(β=0.30)・筋輝度(β=-0.17)が有意な項目として選択された。また,モデル2では,筋厚(β=0.24)・筋輝度(β=-0.15)に加えて,ECW/ICW比(β=-0.24)が有意な項目として選択された。なお,両モデルともに多重共線性に問題はなかった。【結論】先行研究に一致し,高齢者の膝伸展筋力に筋厚・筋輝度が影響することを確認した。モデル2の結果より,筋厚・筋輝度だけではなくECW/ICW比もまた,高齢者の筋力発揮に独立して影響することが明らかとなった。筋の質的評価とされる筋輝度とECW/ICW比は異なる性質を反映し,筋輝度だけでは評価しきれなかった質的変化を補完すると考えられた。両者を評価することにより筋力低下を引き起こす質的変化をより精度よく評価できることが示唆された。