[O-KS-14-2] 斜め前向き降段動作の足関節・膝関節バイオメカニクス特性
Keywords:足関節, 膝関節, 降段動作
【はじめに,目的】
階段降段動作(以下,降段)は下肢に加わる力学的負荷が大きい動作であり,高齢者にとって困難となりやすい。降段が困難な高齢者は,斜め前向き降段(以下,斜方降段)を行うことがある。これは斜方降段には一般的な前向き降段(以下,前方降段)より,下肢に加わる力学的負荷の観点において何らかの利点があるためであると考えられるが,斜方降段の運動学,運動力学的な特徴について検討した報告は渉猟する限り見当たらない。
そこで本研究は斜方降段の下肢のバイオメカニクス特性について,特に降段時に加わる力学的負荷が大きいとされる後行肢の足関節,膝関節に着目して明らかにすることを目的に実施した。
【方法】
被験者は下肢に重篤な整形外科的既往,および現病歴を有さない健常若年者7人であった。課題は前方降段条件と斜方降段条件の2条件で行い,両条件ともに4段構成の階段の下から3段目からの左下肢を先行肢とする2足1段の降段を行った。開始姿勢は,前方降段条件では両上前腸骨棘を結んだ直線と両肩峰を結んだ直線のそれぞれが段鼻と平行に,斜方降段条件では体を右へ向け,それぞれの直線が段鼻と45[deg]の角度をなすような立位姿勢とした。両条件とも降段スピードは前方降段条件時に被験者が感じる快適降段スピードに統一した。解析対象は後行肢である右下肢とし,解析区間は右下肢の単脚支持期(左下肢が下から2段目を離地した瞬間から,下から1段目に接地した瞬間まで)とした。運動学的データは赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析システム(Vicon Motion Systems社製),運動力学的データは床反力計(テック技販社製)4基を用いて取得した。得られたデータを基にNexus2.1(Vicon Motion Systems社製)を用いて,関節角度,関節モーメントを算出した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.22.0(日本アイ・ビー・エム社製)を用い,Shapiro-Wilk検定によりデータの正規性を確認した後,対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
両条件間で足関節最大背屈角度,膝関節最大屈曲角度のそれぞれに有意な差は認めなかった。一方,前方降段条件と比較して斜方降段条件では,足関節底屈モーメント平均値は有意に低値を示し(p<0.01),膝関節伸展モーメント平均値は有意に高値を示した(p<0.01)。
【結論】
斜方降段条件では前方降段条件と比較して,足関節底屈モーメント平均値は有意に低値を示した。しかし,膝関節伸展モーメント平均値は有意に高値を示しており,膝関節では足関節で軽減された力学的負荷を代償している可能性が示唆された。以上より,斜方降段は後行肢の足関節底屈筋群の筋力低下がみられる高齢者に適していると考えられるが,膝関節機能に着目する必要性が示唆された。
階段降段動作(以下,降段)は下肢に加わる力学的負荷が大きい動作であり,高齢者にとって困難となりやすい。降段が困難な高齢者は,斜め前向き降段(以下,斜方降段)を行うことがある。これは斜方降段には一般的な前向き降段(以下,前方降段)より,下肢に加わる力学的負荷の観点において何らかの利点があるためであると考えられるが,斜方降段の運動学,運動力学的な特徴について検討した報告は渉猟する限り見当たらない。
そこで本研究は斜方降段の下肢のバイオメカニクス特性について,特に降段時に加わる力学的負荷が大きいとされる後行肢の足関節,膝関節に着目して明らかにすることを目的に実施した。
【方法】
被験者は下肢に重篤な整形外科的既往,および現病歴を有さない健常若年者7人であった。課題は前方降段条件と斜方降段条件の2条件で行い,両条件ともに4段構成の階段の下から3段目からの左下肢を先行肢とする2足1段の降段を行った。開始姿勢は,前方降段条件では両上前腸骨棘を結んだ直線と両肩峰を結んだ直線のそれぞれが段鼻と平行に,斜方降段条件では体を右へ向け,それぞれの直線が段鼻と45[deg]の角度をなすような立位姿勢とした。両条件とも降段スピードは前方降段条件時に被験者が感じる快適降段スピードに統一した。解析対象は後行肢である右下肢とし,解析区間は右下肢の単脚支持期(左下肢が下から2段目を離地した瞬間から,下から1段目に接地した瞬間まで)とした。運動学的データは赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析システム(Vicon Motion Systems社製),運動力学的データは床反力計(テック技販社製)4基を用いて取得した。得られたデータを基にNexus2.1(Vicon Motion Systems社製)を用いて,関節角度,関節モーメントを算出した。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS Ver.22.0(日本アイ・ビー・エム社製)を用い,Shapiro-Wilk検定によりデータの正規性を確認した後,対応のあるt検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
両条件間で足関節最大背屈角度,膝関節最大屈曲角度のそれぞれに有意な差は認めなかった。一方,前方降段条件と比較して斜方降段条件では,足関節底屈モーメント平均値は有意に低値を示し(p<0.01),膝関節伸展モーメント平均値は有意に高値を示した(p<0.01)。
【結論】
斜方降段条件では前方降段条件と比較して,足関節底屈モーメント平均値は有意に低値を示した。しかし,膝関節伸展モーメント平均値は有意に高値を示しており,膝関節では足関節で軽減された力学的負荷を代償している可能性が示唆された。以上より,斜方降段は後行肢の足関節底屈筋群の筋力低下がみられる高齢者に適していると考えられるが,膝関節機能に着目する必要性が示唆された。