[O-KS-14-5] ステップ長延長に伴う歩行速度増大と,股関節屈曲・足関節底屈パワー比との関連
Keywords:歩行速度, ステップ長, 股関節屈曲・足関節底屈パワー比
【はじめに,目的】
歩行速度はADL自立度や転倒率,ひいては生命予後との関連が報告され,疫学的に重要な評価指標である。歩行速度はステップ長とケイデンスにより規定されるが,とりわけ高齢者では,ステップ長低下が歩行速度低下の大きな要素として挙げられる。そのため,高齢期の歩行速度の維持・向上には,ステップ長低下の防止が有用と考えられる。ステップ長低下には,下肢関節可動域の狭小化,バランス機能の低下といった要因が含まれるが,運動力学的観点では足関節底屈パワーの低下が強く関連している。一方,歩行の立脚後期において,足関節底屈パワーは股関節屈曲パワーと機能的に関連し,ともに下肢の振り出しに関わる。さらに両パワーは,同一速度ではステップ長とケイデンスの増減により,トレードオフが生じることが報告されている。そのため,ステップ長延長による歩行速度向上には,各関節のパワー発生の量的な変化のみでなく,股関節屈曲と足関節底屈のパワー比に注目することが必要と考えた。そこで本研究の目的を,ステップ長延長による歩行速度向上の際の,股関節屈曲および足関節底屈のパワー比変化を検証することとした。
【方法】
健常成人女性を対象に,ケイデンスを100歩/分に規定した,1.0m/s(slow),1.2m/s(normal),1.4m/s(fast)の3課題の歩行を行わせた。それぞれの歩行を三次元動作解析装置にて計測し,下肢関節パワーを算出した(単位:W/kg)。それぞれの歩行を5回ずつ測定し,歩行速度が規定値に近い3試行の平均値を解析に用いた。また立脚後期の正の股関節屈曲パワーを,正の足関節底屈パワーで除し,股関節屈曲・足関節底屈パワー比として算出した。統計解析には一元配置分散分析,もしくはFriedman検定を用いて3課題間のパワーおよびパワー比を比較検討した。
【結果】
立脚後期の正の股関節屈曲パワーは,slow,normal,fastの順に,それぞれ1.09±0.28,1.40±0.46,1.63±0.48であり,slowに比べfastで有意に大きかった(p<.01)。同様に,正の足関節底屈パワーは3.31±0.47,4.11±0.68,4.82±0.66で,速度の増大と共に有意に増大した(p<.05)。股関節屈曲・足関節底屈パワー比は0.35[0.18-0.45],0.29[0.16-0.66],0.33[0.16-0.61]であった。
【結論】
ステップ長延長による歩行速度向上の際,下肢関節パワーが増大する一方で,立脚後期の股関節屈曲と,足関節底屈の正のパワー比に有意な変化はなかった。ステップ長延長により歩行速度を向上させるためには,下肢関節パワー発揮の向上に加え,振り出し時の股関節と足関節パワーの比率を一定にする必要があると考えられる。
歩行速度はADL自立度や転倒率,ひいては生命予後との関連が報告され,疫学的に重要な評価指標である。歩行速度はステップ長とケイデンスにより規定されるが,とりわけ高齢者では,ステップ長低下が歩行速度低下の大きな要素として挙げられる。そのため,高齢期の歩行速度の維持・向上には,ステップ長低下の防止が有用と考えられる。ステップ長低下には,下肢関節可動域の狭小化,バランス機能の低下といった要因が含まれるが,運動力学的観点では足関節底屈パワーの低下が強く関連している。一方,歩行の立脚後期において,足関節底屈パワーは股関節屈曲パワーと機能的に関連し,ともに下肢の振り出しに関わる。さらに両パワーは,同一速度ではステップ長とケイデンスの増減により,トレードオフが生じることが報告されている。そのため,ステップ長延長による歩行速度向上には,各関節のパワー発生の量的な変化のみでなく,股関節屈曲と足関節底屈のパワー比に注目することが必要と考えた。そこで本研究の目的を,ステップ長延長による歩行速度向上の際の,股関節屈曲および足関節底屈のパワー比変化を検証することとした。
【方法】
健常成人女性を対象に,ケイデンスを100歩/分に規定した,1.0m/s(slow),1.2m/s(normal),1.4m/s(fast)の3課題の歩行を行わせた。それぞれの歩行を三次元動作解析装置にて計測し,下肢関節パワーを算出した(単位:W/kg)。それぞれの歩行を5回ずつ測定し,歩行速度が規定値に近い3試行の平均値を解析に用いた。また立脚後期の正の股関節屈曲パワーを,正の足関節底屈パワーで除し,股関節屈曲・足関節底屈パワー比として算出した。統計解析には一元配置分散分析,もしくはFriedman検定を用いて3課題間のパワーおよびパワー比を比較検討した。
【結果】
立脚後期の正の股関節屈曲パワーは,slow,normal,fastの順に,それぞれ1.09±0.28,1.40±0.46,1.63±0.48であり,slowに比べfastで有意に大きかった(p<.01)。同様に,正の足関節底屈パワーは3.31±0.47,4.11±0.68,4.82±0.66で,速度の増大と共に有意に増大した(p<.05)。股関節屈曲・足関節底屈パワー比は0.35[0.18-0.45],0.29[0.16-0.66],0.33[0.16-0.61]であった。
【結論】
ステップ長延長による歩行速度向上の際,下肢関節パワーが増大する一方で,立脚後期の股関節屈曲と,足関節底屈の正のパワー比に有意な変化はなかった。ステップ長延長により歩行速度を向上させるためには,下肢関節パワー発揮の向上に加え,振り出し時の股関節と足関節パワーの比率を一定にする必要があると考えられる。