[O-KS-16-6] 脳梗塞発症前の運動がもたらす発症後障害軽減効果に関する検討
Keywords:脳梗塞, アストロサイト, 低酸素誘導因子
【はじめに,目的】脳梗塞発症前に一定期間の運動を行うことで,発症後の障害が軽減されることが先行研究より報告されている。しかし,その作用機序に関してはいまだ不明な点が多く,また多くの先行研究はニューロンに着目したものであり,グリア細胞に着目した検討は少ない。グリア細胞の一種であるアストロサイトは脳梗塞発症後,梗塞部周辺領域において活性化することが知られており,様々な神経保護因子の放出や神経伝達物質の取り込みなどの作用から,神経保護に関与することが報告されている。また血管新生やエネルギー代謝などに関与する多数の下流因子の発現を制御することによって,虚血耐性を高めることが報告されている低酸素誘導因子(HIF)-1αは,脳梗塞後のアストロサイト活性化に関与することが報告されている。そこで本研究は,脳梗塞発症前のトレッドミル運動がもたらす障害軽減効果の作用機序に関して,梗塞周辺領域におけるアストロサイト活性化と,アストロサイトにおけるHIF-1α発現に着目して検討することを目的とした。【方法】実験動物は雄性CB-17系(CB-17/lcr-+/+Jcl)マウス(6週齢)20匹を用い,無作為に偽手術(Sham)群とSham+運動(Ex)群,脳梗塞(MCO)群とMCO+Ex群の4群に分けた。運動群は12週間のトレッドミル走行運動(20 m/分,50分/日)を行い,非運動群は同期間通常飼育した。12週間後,左中大脳動脈皮質枝を焼灼することで脳梗塞モデルを作成し,手術後48時間の時点でマウスの感覚運動機能の評価(Grid walkingテスト,Adhesive removalテスト,握力テスト)を行い,脳組織を採取した。採取した脳組織から凍結冠状断切片を作成し,Nissl染色により梗塞体積を測定した。また免疫組織化学染色によりGFAP(アストロサイトマーカー),HIF-1αを染色し,梗塞周辺部におけるGFAP陽性細胞面積を測定することでアストロサイト活性を評価し,陽性細胞数を測定することでアストロサイトにおけるHIF-1α発現を評価した。【結果】脳梗塞後48時間の時点の感覚運動機能評価において,全てのテストでMCO群の有意な障害が確認された。またAdhesive removalテストにおいてMCO+Ex群がMCO群よりも障害が有意に軽減され,Grid walkingテストにおいて軽減の傾向がみられた。梗塞体積はMCO+Ex群がMCO群と比較して有意に減少していた。また免疫組織化学染色により,MCO+Ex群がMCO群と比較して,梗塞周辺部におけるGFAP陽性細胞面積の有意な増加と,GFAP/HIF-1α陽性細胞数の有意な増加が認められた。【結論】本研究は脳梗塞発症前の長期的な運動が発症後の感覚運動機能障害を改善することを示し,運動による梗塞周辺領域におけるアストロサイト活性化の促進と,アストロサイトにおけるHIF-1α発現の増加が,その作用機序として神経保護に関与する可能性を示した。