[O-KS-18-5] 外乱の予測に応じた足関節底背屈筋の皮質脊髄路興奮性の事前調節
Keywords:皮質脊髄路, 予測, 前脛骨筋
【はじめに,目的】
運動野から脊髄運動ニューロンに下降する皮質脊髄路(CST)は,ヒト二足立位の制御に関わる神経経路の一つである。これまでの研究で,足関節底背屈筋CSTの興奮性は,不安定な環境に暴露された際に上昇することが報告されており,フィードバック情報に応じて,姿勢要求に見合うように変調していると考えられる。
一方,姿勢外乱により不安定な環境が予測される時,CSTがどのように調節されるかは明らかではない。CSTが予測情報を利用して興奮性を調節しているのであれば,予測される外乱に応じてあらかじめ応答を設定していると考えられる。
本研究の目的は,足関節底背屈筋CSTの興奮性が,外乱の方位・強度の予測情報に応じて,先行して変調するかを明らかにすることであった。
【方法】
対象は健常な成人男性12名(27.3±5.6歳)であった。経頭蓋磁気刺激装置(TMS)を用い,姿勢外乱が印加される50ms前の運動誘発電位(MEP)を計測した。参加者には,プラットフォーム上(Motion-Base MB-150)で立位姿勢を保持するように指示した。外乱は,足底支持面の前後方向への水平移動を負荷した。今回の研究では,強度および方位を変えた3種類の外乱を用いた。実験条件は,それぞれの外乱が単独で加わる①前方・弱(3.5cm,10cm/s),②前方・強(7.0cm,25cm/s),③後方(7.0cm,25cm/s)と,3種の外乱が順不同に加わる④ランダム,さらに,外乱を負荷しない⑤外乱なし,を設けた。筋活動応答を,前脛骨筋(TA),ヒラメ筋(SOL)から導出した。統計処理は,各条件で得られたMEPの差を一元配置分散分析により比較した。統計的有意水準は5%とした。
【結果】
前脛骨筋MEPは,外乱なし,後方,前方・弱,ランダム,前方・強条件の順に増大していた。分散分析の結果,前脛骨筋MEPには条件間の主効果が認められた(F2.2 24.7=14.9,p<0.001)。事後解析において,後方以外の他の条件で外乱なし条件よりも有意に増大していた。またこれは外乱の強度・方位の影響を受け,前方・強条件で前方・弱および後方条件よりも有意な増大を示した。一方,ヒラメ筋MEPについては,条件間の主効果が認められなかった(F4 44=2.2,p=0.09)。
【結論】
本研究の結果から,外乱の予測によってTAのCSTの興奮性が事前に変調することが明らかとなった。また,この変調は,外乱の強度および方位に応じてスケーリングされることが分かった。このことは,無意識・無自覚に調節される立位の制御においても,随意運動と同じように,予測情報を利用して中枢神経系の応答が事前設定されていることを示唆している。また,TAとSOLの間で予測の効果が異なっており,このことは立位姿勢における両筋の役割の違いや,皮質脊髄路との連絡の強さの違いを反映していると考えられる。
運動野から脊髄運動ニューロンに下降する皮質脊髄路(CST)は,ヒト二足立位の制御に関わる神経経路の一つである。これまでの研究で,足関節底背屈筋CSTの興奮性は,不安定な環境に暴露された際に上昇することが報告されており,フィードバック情報に応じて,姿勢要求に見合うように変調していると考えられる。
一方,姿勢外乱により不安定な環境が予測される時,CSTがどのように調節されるかは明らかではない。CSTが予測情報を利用して興奮性を調節しているのであれば,予測される外乱に応じてあらかじめ応答を設定していると考えられる。
本研究の目的は,足関節底背屈筋CSTの興奮性が,外乱の方位・強度の予測情報に応じて,先行して変調するかを明らかにすることであった。
【方法】
対象は健常な成人男性12名(27.3±5.6歳)であった。経頭蓋磁気刺激装置(TMS)を用い,姿勢外乱が印加される50ms前の運動誘発電位(MEP)を計測した。参加者には,プラットフォーム上(Motion-Base MB-150)で立位姿勢を保持するように指示した。外乱は,足底支持面の前後方向への水平移動を負荷した。今回の研究では,強度および方位を変えた3種類の外乱を用いた。実験条件は,それぞれの外乱が単独で加わる①前方・弱(3.5cm,10cm/s),②前方・強(7.0cm,25cm/s),③後方(7.0cm,25cm/s)と,3種の外乱が順不同に加わる④ランダム,さらに,外乱を負荷しない⑤外乱なし,を設けた。筋活動応答を,前脛骨筋(TA),ヒラメ筋(SOL)から導出した。統計処理は,各条件で得られたMEPの差を一元配置分散分析により比較した。統計的有意水準は5%とした。
【結果】
前脛骨筋MEPは,外乱なし,後方,前方・弱,ランダム,前方・強条件の順に増大していた。分散分析の結果,前脛骨筋MEPには条件間の主効果が認められた(F2.2 24.7=14.9,p<0.001)。事後解析において,後方以外の他の条件で外乱なし条件よりも有意に増大していた。またこれは外乱の強度・方位の影響を受け,前方・強条件で前方・弱および後方条件よりも有意な増大を示した。一方,ヒラメ筋MEPについては,条件間の主効果が認められなかった(F4 44=2.2,p=0.09)。
【結論】
本研究の結果から,外乱の予測によってTAのCSTの興奮性が事前に変調することが明らかとなった。また,この変調は,外乱の強度および方位に応じてスケーリングされることが分かった。このことは,無意識・無自覚に調節される立位の制御においても,随意運動と同じように,予測情報を利用して中枢神経系の応答が事前設定されていることを示唆している。また,TAとSOLの間で予測の効果が異なっており,このことは立位姿勢における両筋の役割の違いや,皮質脊髄路との連絡の強さの違いを反映していると考えられる。