The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » 口述発表

[O-KS-18] 口述演題(基礎)18

Sun. May 14, 2017 11:40 AM - 12:40 PM B3会場 (東京ベイ幕張ホール No. 6)

座長:浅賀 忠義(北海道大学大学院保健科学研究院機能回復学分野)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[O-KS-18-6] 前方足圧中心移動時の高齢者の反応時間の遅延と下肢筋活動抑制の低下

笠原 敏史, 齋藤 展士 (北海道大学大学院保健科学研究院機能回復学分野)

Keywords:姿勢制御, 加齢, 筋活動

【はじめに】高齢者の健康上の問題として,骨折があげられる。骨折の原因の多くは,姿勢調節の障害に関係する転倒である。高齢者の姿勢調節は,視覚情報への高い依存度,股関節戦略の利用,反応時間の遅れ,運動自由度の低下などを特徴とする。また,高齢者の立位バランス時の下肢筋活動の同時収縮も特徴の一つである。これまでの姿勢制御に関する研究報告では,下肢筋の活動(興奮性)に着目して同時収縮を主に評価している。しかしながら,動筋の作用を効率よくするためには,拮抗筋の抑制も重要である。本研究では,拮抗筋の抑制性に着目し,動的運動課題時の反応時間と下肢筋活動の加齢の影響について調べた。


【方法】対象は健康若年者29名,健康高齢者26名とし,1年以内に転倒歴のない者であった。測定肢位は安静直立位とし,床反力計上に立たせた。運動課題は視覚誘導型の足圧中心(COP)を用いた追跡課題とし,被験者に「眼前に設置したコンピュータ・モニター内に提示された目標にCOPを一致して下さい」と指示した。被験者は課題を10試行行った。モニター内の目標の動きは上方へのステップ状の離散運動とし(振幅5.0cm),実際の運動はCOPの前方移動とした。COPデータから目標に対する運動反応時間,前後の最大速度,運動停止時間を算出した。導出筋は,利き足側の脊柱起立筋,腹直筋,大腿直筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋とした。各筋の活動と抑制の発現率,活動時間,抑制時間を計測した。COPのデータのグループ間と筋の各時間のグループ間の比較はt検定,各筋の発現率はカイ二乗検定を用いて統計解析を行った。有意水準は0.05未満とした。


【結果】高齢群のCOPの運動反応時間は若年群に比べて有意に遅延し(若年群341.3±5.4 msec,高齢群363.9±9.2 msec,p<0.05),高齢群の運動停止時間は有意に延長していた(若年群2078.0±163.3 msec,高齢群4828.3±201.4 msec,p<0.01)。COPの前方および後方最大速度に年齢差はなかった。高齢群の大腿四頭筋の活動の発現率が有意に高く(大腿四頭筋:若年群77.3%,高齢群100.0%,p<0.05),高齢群の大腿二頭筋と腓腹筋の抑制の発現率は有意に低かった(大腿二頭筋:若年群90.9%,高齢群64.7%,p<0.05,腓腹筋:若年群100.0%,高齢群88.2%)。高齢群の前脛骨筋,脊柱起立筋,大腿二頭筋,腓腹筋の活動時間は若年群より有意に延長し,高齢群の脊柱起立筋,大腿二頭筋,腓腹筋の抑制時間は有意に短縮していた。


【結論】本研究より,高齢者の運動開始前の拮抗筋の抑制と運動停止時の動筋の抑制は若年者に比べて低いことが明らかとなった。円滑な足圧中心や重心移動には筋の抑制も重要であるこを示唆する。