第52回日本理学療法学術大会

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » 口述発表

[O-KS-19] 口述演題(基礎)19

2017年5月14日(日) 13:00 〜 14:00 A5会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室302)

座長:坂本 淳哉(長崎大学)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[O-KS-19-1] 踵腓靭帯の形態的多様性に関する肉眼解剖学的研究
腓骨筋腱のtensioner機能を有する可能性

吉塚 久記1,2, 柴田 健太郎3, 岩城 彰4, 浅見 豊子5, 倉岡 晃夫3 (1.専門学校柳川リハビリテーション学院, 2.佐賀大学大学院医学系研究科, 3.佐賀大学医学部解剖学・人類学分野, 4.けいめい記念病院整形外科, 5.佐賀大学医学部附属病院リハビリテーション科)

キーワード:肉眼解剖学, 踵腓靭帯, 腓骨筋

【はじめに,目的】

足部内反捻挫に伴う外側靭帯損傷は最も一般的なスポーツ損傷であり,これまで前距腓靭帯や踵腓靭帯(CFL)に関する複数の肉眼解剖学的検討が成されているが(Matsui, et al., 2016),それらは各靱帯の平均値,最大・最小値など一元的な解析に留まり,個体差に着目した報告はない。この点の解明は,受傷機転の相違など外側靭帯損傷のさらなる理解に重要と考えられる。そこで,CFLの走行角度・長さ・幅を計測し,これらの分布状態を出現頻度別に検討した。

【方法】

対象は解剖実習体54体(男性32体,女性22体,死亡時年齢77.7±12.3歳)の両側108肢とした。計測は距腿関節・距骨下関節0°肢位で行った。CFLの走行角度はRuth(1961)に従い,腓骨長軸とCFLの成す角度を計測し,記録の最小単位は5°とした。靱帯長はYildiz and Yalcin(2013)に従い,腓骨付着部から踵骨付着部近位端,あるいは遠位端までの距離を各々Shortest length(SL),Longest length(LL)とした。また,靱帯の最小幅(Min-W)と最大幅(Max-W)を計測した。長さと幅の記録の最小単位は0.5mmとして,1.5mm毎に出現頻度を集計した。

【結果】

すべてのCFLは腓骨筋腱の深層側を横切って走行していた。腓骨長軸とCFLの成す角度は0~70°の範囲で65°を除くすべての値が認められ,30°が24例(22.2%)で最多であった。0°も7例(6.5%)認められた。SLの計測結果は11.0~30.0mmにわたり,27.0~28.5mmの範囲を除くすべての値が認められ,15.0~16.5mmならびに17.0~18.5mmの範囲が各々23例(21.3%)で最多であった。同様にLL,Min-W,Max-Wの計測結果と最多頻度は,各々18.0~38.0mm/26.0~27.5mm(20例,18.5%),2.5~8.5mm/5.0~5.5mm(41例,38.0%),3.5~14.0mm/8.0~9.0mm(44例,40.7%)であった。SL,LL,Min-W,Max-Wの最大値と最小値の比は,各々2.7,2.1,3.4,4.0に達した。

【結論】

本研究により,CFLの形態的多様性が初めて明らかとなった。一般にCFLは内反時の制動を担うが,SarrafianとKelikian(2011)は,底背屈位においてCFLの緊張が一定でないことを指摘しており,今回示した靱帯構造の多様性がこの機能的個体差の要因である可能性が強く示唆される。

また,CFLは形態的多様性を持つ反面,今回108例のすべてに共通する所見として,CFLは腓骨筋腱の直下を横切る状態で存在していた。したがって,内反位でのCFLの緊張は腓骨筋腱のリフトアップをもたらすことで,tensionerとしての共通の機能を有しているとも考えられる。実際,踵骨内反位における腓骨筋の遠心性および等尺性収縮は重要な機能であり,日常生活やスポーツ場面において,この収縮形態は非荷重位よりも荷重位に多く,CFLや腓骨筋はそもそも荷重位を想定した形態と推察される。理学療法における腓骨筋の筋力増強運動には,この点の考慮が重要と考えられる。