第52回日本理学療法学術大会

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日本運動器理学療法学会 » 口述発表

[O-MT-14] 口述演題(運動器)14

2017年5月13日(土) 18:10 〜 19:10 A6会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室303)

座長:福井 勉(文京学院大学保健医療技術学部)

日本運動器理学療法学会

[O-MT-14-3] 歩行時における下肢力学的エネルギーの流れと絶対座標軸からみた大腿骨の運動学的特性

加藤 浩1, 阿南 雅也2 (1.九州看護福祉大学大学院看護福祉学研究科健康支援科学専攻, 2.大分大学福祉健康科学部理学療法コース)

キーワード:歩行, 力学的エネルギー, 大腿骨の運動

【はじめに】

我々は,変形性股関節疾患患者(OA患者)の跛行に関する研究として,関節パワーに着目し,力学的エネルギーの流れ込みについての研究をしてきた。その結果,健常ベースと比較しエネルギーの流れに相異がある可能性を見出した。そこで,本研究の目的は歩行時立脚初期時における大腿骨の動きに着目し同エネルギーの流れとの関連性について検討することである。

【方法】

対象は健常者1名(女性,年齢:70歳,身長:158.0 cm,体重:55 kg)及び,両側OA患者1名(女性,年齢:72歳,身長:155.0 cm,体重:54 kg)。日整会点数は,疼痛10点,可動域(屈曲:10点,伸展:1点),歩行能力10点,日常生活動作10点であった。病期分類は両側末期レベルであった。計測はカメラ10台を用いた三次元動作解析装置Vicon MX-T40Sと6枚の床反力計を用いた。身体の33カ所に貼付したマーカ座標から8剛体リンクモデルを作成し,各剛体の近位部と遠位部のセグメントトルクパワーを算出し,これを力学的エネルギーと定義した。次に歩行周期が100%となるよう正規化した。解析側は右下肢とし,床反力垂直成分が増大する初期接地から荷重応答期(歩行周期0%~12%)における骨盤・大腿・下腿の力学的エネルギーの平均値を算出した。同時に当該時期における矢状面での大腿骨の絶対空間上における角度を算出した。

【結果】

1.力学的エネルギー(w/kg):健常者の場合,骨盤(遠位部),大腿(近位部,遠位部),下腿(近位)の力学的エネルーは,それぞれ-0.30,0.15,0.47,-0.23であった。同様にOA患者の場合,-0.12,0.08,-0.07,0.06であった。

2.大腿骨の角度(deg):健常者の場合,初期接地時の大腿骨の角度は垂直軸に対し20.1°であり,歩行周期6%,12%ではそれぞれ,19.8°,15.9°であった。初期接地時との角度変化量は0.3°,4.2°であった。同様にOA患者の場合,垂直軸に対し19.3°であり,歩行周期6%,12%ではそれぞれ,17.7°,14.9°であった。初期接地との角度変化量は1.6°,4.4°であった。

【結論】

力学的エネルギーが正値の場合,当該セグメントへのエネルギーの流入を意味し,逆に負値の場合,放出を意味する。股関節では,両者共に骨盤は正値,大腿骨近位部は負値であるため骨盤から大腿へ向けてエネルギーの流れが生じたと言える。一方で膝関節では,健常者は下腿から大腿へ,OA患者では大腿から下腿へ向けてエネルギーの流れた生じたと言える。つまり,健常者では大腿へエネルギーの流れが集中する結果となった。そして,この時の健常者における大腿骨の運動学的特性としては,初期接地時前半では殆ど大腿骨の回転運動は生じていないことが示された。以上のことから,歩行時の大腿骨の絶対空間座標での安定化がエネルギーの流れの一要因として関与している可能性が示唆された。

本研究の一部は,科学研究費補助金(基盤研究C課題番号25350655)の採択を受けて実施した。