第52回日本理学療法学術大会

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日本運動器理学療法学会 » 口述発表

[O-MT-16] 口述演題(運動器)16

2017年5月14日(日) 11:40 〜 12:40 A4会場 (幕張メッセ国際会議場 中会議室301)

座長:小野 志操(京都下鴨病院理学療法部)

日本運動器理学療法学会

[O-MT-16-1] 姿勢制御課題における人工膝関節全置換術後患者の膝周囲筋の同時収縮とバランス機能の関連について

伊藤 崇倫1, 小林 巧2, 神成 透3, 堀内 秀人4, 松井 直人3, 角瀬 邦晃3, 野陣 佳織5 (1.札幌中央病院リハビリテーション科, 2.北海道千歳リハビリテーション学院理学療法学科, 3.北海道整形外科記念病院リハビリテーション科, 4.NTT東日本札幌病院整形外科リハビリテーションセンター, 5.時計台記念病院リハビリテーションセンター)

キーワード:人工膝関節全置換術, 同時収縮, バランス機能

【はじめに,目的】高齢者の転倒による骨折は,要介護の原因の一つである。転倒リスクの評価の一つにバランス評価があり,中でも片脚立位は臨床において最も頻繁に利用される評価の一つである。人工膝関節全置換術(TKA)後患者では,歩行時の大腿二頭筋の筋活動量が増加するなどの神経筋機構の障害が報告されている。しかし,片脚立位における神経筋機構については不明であり,また,その神経筋機構がバランス機能に与える影響については不明である。本研究の目的は,片脚立位動作課題を用いて,TKA後患者の膝関節周囲筋の同時収縮について調査し,バランス機能との関連について検討することである。

【方法】対象はTKA後4週が経過した9名(TKA群:男1名女8名,平均年齢68.3±6.5歳)と年齢をマッチさせた健常高齢者10名(健常群:男2名女8名,平均年齢68.0±5.7歳)とした。施行動作は,両上肢を対側に位置させた両脚立位を開始肢位とし,合図とともに下肢を挙上させ片脚立位となる動作とし,3秒間片脚立位姿勢を保持させた。TKA群は術側,健常群は利き足について測定を実施した。同時収縮の測定は,Noraxon社製筋電計を使用し,導出筋は外側広筋と大腿二頭筋とした。片脚立位動作を姿勢移行時(移行時)と片脚立位保持時(保持時)に区分し,それぞれの区間における同時収縮についてKellisらの方法に準じてco-contraction index(CI)を算出した。バランス機能として,両側の片脚立位時間,Functional reach test(FRT),Timed up and go test(TUG)を測定した。統計学的分析として,TKA群および健常群のCIおよびバランス機能の比較に,student-t検定を用いた。また,CIとバランス機能の関連性の検討にPearsonの相関係数を用いた。有意水準は5%とした。

【結果】TKA群と健常群のCIの比較について,移行時(TKA群0.39±0.22,健常群0.23±0.06),保持時(TKA群0.40±0.19,健常群0.23±0.11)ともに有意な差を認めた。バランス機能の比較については,TUGは健常群(5.96±0.45s)と比較してTKA群(7.72±0.84s)で有意に高値を示した。各群のCIとバランス機能の関連について,TKA群では移行時のCIとFRTに有意な負の相関が認められた(r=-0.69)。その他にCIと有意に関連するバランス機能は認められなかった。

【結論】本研究結果から,TKA群は健常群と比較して,移行時,保持時ともにCIが有意に高かった。TKA群では姿勢制御課題において,膝の同時収縮を増加させることで膝関節の安定性を供給し,姿勢の安定化を図っている可能性が示唆された。バランス機能との関連について,TKA群は移行時のCIとFRTに有意な負の相関が認められた。支持基底面内における重心移動において,膝の同時収縮の増加は,膝の安定性化に働く一方で,立位動作における運動性を低下させる可能性が示唆された。今後は歩行時の筋活動とバランス機能の関連などTKA後の神経筋機構の詳細な検討が必要である。