[O-NV-08-4] 急性期脳卒中片麻痺者における半側空間無視および視覚的手がかりが主観的視覚性垂直定位に及ぼす影響
Keywords:脳卒中, 主観的視覚性垂直, 半側空間無視
【はじめに,目的】
脳卒中後にはしばしば鉛直方向の知覚(垂直定位)が障害され,特に半側空間無視(USN)や姿勢障害を合併する場合に著しく障害される。垂直定位において,視覚的手がかり利用の可否は理学療法の治療戦略に影響し,また,主観的視覚性垂直(SVV)検査では標的線周囲の視覚情報の影響を受けるとの報告がある。しかし,USNにおけるSVVの鉛直位からの逸脱幅に関する検討は行われていない。本研究の目的は,USNおよび視覚的手がかりの有無がSVVに及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】
対象は,急性期脳卒中患者30名(65.6±10.6歳,左片麻痺19名,右片麻痺11名)とした。線分二等分試験,星印抹消試験,模写試験において,1つ以上の項目でカットオフ値以下であった場合をUSNあり(N+),それ以外をUSNなし(N-)とした。SVV検査は,暗室において,座位姿勢にて対象者の頭部,体幹を固定し,1.2m前方の壁面上に長さ30cmの標的線を投影して,左右傾斜位30°から1.2秒/°で鉛直方向に回転する標的線が鉛直位(0°)にあると対象者が判断した時点の角度を計測する方法で実施した。測定はランダムに左右5回ずつ行った。身体内部を基準とした垂直定位と外界の視覚的手がかりを利用した場合の垂直定位の変化を比較するために,標的線の周囲に四角形の枠を提示しない場合(枠なし)と提示した場合(枠あり)の2条件で測定した。枠なし,枠ありの10回ずつの平均値がSVVの正常範囲2.5°(Pérennou, et al., 2008)を超える場合をSVV逸脱ありとした。また,左右それぞれ5回の平均値が鉛直位から逸脱した幅が,SVV正常範囲の2倍(5.0°)を超える場合をSVV逸脱幅過大とした。統計解析は,それぞれの測定条件において,USNの有無とSVV逸脱およびSVV逸脱幅との関連をPearsonのカイ2乗検定,Fisherの正確確率検定を用いて比較した。測定条件間のSVV逸脱,SVV逸脱幅への影響をWilcoxon符号順位検定を用いて比較した。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
USNは,左片麻痺の31.6%,右片麻痺の9.1%で認めた。SVV逸脱が生じた割合(N+,N-)は,枠なし(57.1%,34.8%),枠あり(14.3%,0%)であり,USNと有意な関連を認めなかった。一方,SVV逸脱幅過大が生じた割合(N+,N-)は,枠なし(85.7%,26.1%),枠あり(85.7%,0%)であり,USNと有意な関連を認めた(p<0.05)。枠の有無(SVV逸脱,SVV逸脱幅)の比較では,枠なし(-1.2±4.6°,6.0±6.7°)よりも枠あり(-0.3±4.6°,4.0±6.4°)で有意に減少した。
【結論】
脳卒中後のSVVでは,視覚的手がかりが利用できる場合は,相対的位置情報によって標的線を鉛直方向に修正できることが明らかとなった。しかし,USNを呈する場合には,視覚的手がかりを十分に利用できず垂直定位の過大な逸脱幅が生じたと推察された。そのためSVVを治療に応用する際には,これらの影響を考慮して垂直定位の再学習を行う必要性が示唆された。
脳卒中後にはしばしば鉛直方向の知覚(垂直定位)が障害され,特に半側空間無視(USN)や姿勢障害を合併する場合に著しく障害される。垂直定位において,視覚的手がかり利用の可否は理学療法の治療戦略に影響し,また,主観的視覚性垂直(SVV)検査では標的線周囲の視覚情報の影響を受けるとの報告がある。しかし,USNにおけるSVVの鉛直位からの逸脱幅に関する検討は行われていない。本研究の目的は,USNおよび視覚的手がかりの有無がSVVに及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】
対象は,急性期脳卒中患者30名(65.6±10.6歳,左片麻痺19名,右片麻痺11名)とした。線分二等分試験,星印抹消試験,模写試験において,1つ以上の項目でカットオフ値以下であった場合をUSNあり(N+),それ以外をUSNなし(N-)とした。SVV検査は,暗室において,座位姿勢にて対象者の頭部,体幹を固定し,1.2m前方の壁面上に長さ30cmの標的線を投影して,左右傾斜位30°から1.2秒/°で鉛直方向に回転する標的線が鉛直位(0°)にあると対象者が判断した時点の角度を計測する方法で実施した。測定はランダムに左右5回ずつ行った。身体内部を基準とした垂直定位と外界の視覚的手がかりを利用した場合の垂直定位の変化を比較するために,標的線の周囲に四角形の枠を提示しない場合(枠なし)と提示した場合(枠あり)の2条件で測定した。枠なし,枠ありの10回ずつの平均値がSVVの正常範囲2.5°(Pérennou, et al., 2008)を超える場合をSVV逸脱ありとした。また,左右それぞれ5回の平均値が鉛直位から逸脱した幅が,SVV正常範囲の2倍(5.0°)を超える場合をSVV逸脱幅過大とした。統計解析は,それぞれの測定条件において,USNの有無とSVV逸脱およびSVV逸脱幅との関連をPearsonのカイ2乗検定,Fisherの正確確率検定を用いて比較した。測定条件間のSVV逸脱,SVV逸脱幅への影響をWilcoxon符号順位検定を用いて比較した。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
USNは,左片麻痺の31.6%,右片麻痺の9.1%で認めた。SVV逸脱が生じた割合(N+,N-)は,枠なし(57.1%,34.8%),枠あり(14.3%,0%)であり,USNと有意な関連を認めなかった。一方,SVV逸脱幅過大が生じた割合(N+,N-)は,枠なし(85.7%,26.1%),枠あり(85.7%,0%)であり,USNと有意な関連を認めた(p<0.05)。枠の有無(SVV逸脱,SVV逸脱幅)の比較では,枠なし(-1.2±4.6°,6.0±6.7°)よりも枠あり(-0.3±4.6°,4.0±6.4°)で有意に減少した。
【結論】
脳卒中後のSVVでは,視覚的手がかりが利用できる場合は,相対的位置情報によって標的線を鉛直方向に修正できることが明らかとなった。しかし,USNを呈する場合には,視覚的手がかりを十分に利用できず垂直定位の過大な逸脱幅が生じたと推察された。そのためSVVを治療に応用する際には,これらの影響を考慮して垂直定位の再学習を行う必要性が示唆された。