[O-NV-08-6] 脳卒中後失行症における多感覚統合障害の検証
視覚フィードバック遅延検出課題を用いた検討
Keywords:失行, 内部モデル, 多感覚統合
【はじめに,目的】内部モデルにおける運動の予測情報(遠心性コピー,感覚フィードバックの予測)と実際の感覚フィードバックとの統合は,頭頂葉の健全性に依存している(MacDonald 2003)。そのため頭頂葉の損傷によって生じることの多い失行症では,運動の予測情報の障害があることが示唆されている(Sirigu 2004,Wolpe 2014)。しかしながら,実際の失行症における多感覚統合障害の有無を客観的かつ定量的に明らかにした研究はない。そこで我々は,視覚フィードバック遅延検出課題(Shimada 2010)を用いて,失行における運動の予測情報も含んだ多感覚統合機能について,横断的に調査した。
【方法】対象は,精神科疾患の既往,認知障害,言語理解障害,視野障害のない脳卒中患者とし,脳卒中機能障害評価法(stroke impairment assessment set:SIAS)によって運動麻痺と感覚障害を認めなかった21名(男性15名,平均年齢±標準偏差:64.9歳±16.1,平均罹患日数±標準偏差:170.8日±191.6)とした。患者には,apraxia screen of TULIA(AST)を実施し,失行群(カットオフポイント9点未満,5名),偽失行群(9点-11点,6名),非失行群(12点満点,10名)の3群に分類した。映像遅延装置(朋栄YEMエレテックス)を用いた自己手の視覚フィードバック遅延検出課題を,3刺激条件(触覚刺激,他動運動,能動運動),7遅延条件(33,99,198,297,396,495,594msec)にて実施した。各患者の成績に基づき,Matlab R2014b(MathWorks)を使用して,多感覚統合機能の定量的指標として,各刺激条件の遅延検出閾値(delay detection threshold:DDT,単位:msec)と遅延検出確率曲線の勾配を算出した。統計学的検討として,SPSS Statistics 24(IBM)を用いて,群間比較と相関分析を実施した。有意水準は5%とした。
【結果】3群間で,触覚刺激条件,他動運動条件におけるDDTおよび遅延検出確率曲線の勾配に,有意差は認めなかった。一方で,失行群では,偽失行群・非失行群と比較して,能動運動条件におけるDDTの有意な延長(p<0.01)と勾配の有意な低下(p<0.01)を認めた。さらに失行重症度(AST得点)と能動運動条件のDDT(r=-0.492,p=0.008)および勾配(r=0.590,p=0.001)との間には有意な相関関係を認めた。
【結論】本研究では,失行症には,感覚フィードバック間の統合には障害がないが,内部モデルにおける運動の予測情報と感覚フィードバックとの統合が障害されていること明確に示した。また内部モデルにおける多感覚統合障害の程度が,失行の重症度に影響している可能性を示唆した。本研究は,運動の予測情報と感覚フィードバックとの統合を促進する介入が,失行の機能回復に効果的であることを示唆する。
【方法】対象は,精神科疾患の既往,認知障害,言語理解障害,視野障害のない脳卒中患者とし,脳卒中機能障害評価法(stroke impairment assessment set:SIAS)によって運動麻痺と感覚障害を認めなかった21名(男性15名,平均年齢±標準偏差:64.9歳±16.1,平均罹患日数±標準偏差:170.8日±191.6)とした。患者には,apraxia screen of TULIA(AST)を実施し,失行群(カットオフポイント9点未満,5名),偽失行群(9点-11点,6名),非失行群(12点満点,10名)の3群に分類した。映像遅延装置(朋栄YEMエレテックス)を用いた自己手の視覚フィードバック遅延検出課題を,3刺激条件(触覚刺激,他動運動,能動運動),7遅延条件(33,99,198,297,396,495,594msec)にて実施した。各患者の成績に基づき,Matlab R2014b(MathWorks)を使用して,多感覚統合機能の定量的指標として,各刺激条件の遅延検出閾値(delay detection threshold:DDT,単位:msec)と遅延検出確率曲線の勾配を算出した。統計学的検討として,SPSS Statistics 24(IBM)を用いて,群間比較と相関分析を実施した。有意水準は5%とした。
【結果】3群間で,触覚刺激条件,他動運動条件におけるDDTおよび遅延検出確率曲線の勾配に,有意差は認めなかった。一方で,失行群では,偽失行群・非失行群と比較して,能動運動条件におけるDDTの有意な延長(p<0.01)と勾配の有意な低下(p<0.01)を認めた。さらに失行重症度(AST得点)と能動運動条件のDDT(r=-0.492,p=0.008)および勾配(r=0.590,p=0.001)との間には有意な相関関係を認めた。
【結論】本研究では,失行症には,感覚フィードバック間の統合には障害がないが,内部モデルにおける運動の予測情報と感覚フィードバックとの統合が障害されていること明確に示した。また内部モデルにおける多感覚統合障害の程度が,失行の重症度に影響している可能性を示唆した。本研究は,運動の予測情報と感覚フィードバックとの統合を促進する介入が,失行の機能回復に効果的であることを示唆する。