The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本神経理学療法学会 » 口述発表

[O-NV-09] 口述演題(神経)09

Sat. May 13, 2017 6:10 PM - 7:10 PM B3会場 (東京ベイ幕張ホール No. 6)

座長:北山 哲也(山梨リハビリテーション病院理学療法課)

日本神経理学療法学会

[O-NV-09-3] 自立歩行が可能な維持期の脳卒中後片麻痺者150名を対象とした屋外歩行自立のための筋力閾値の検討

大畑 光司1, 梅村 啓次2 (1.京都大学大学院医学研究科, 2.川村義肢株式会社)

Keywords:脳卒中後片麻痺, 筋力, カットオフ値

【目的】脳卒中後片麻痺患者の歩行機能を最も顕著に反映する歩行速度の改善はリハビリテーションの重要な目標である。これまで,歩行速度と麻痺側筋力の関連性が明確であるにもかかわらず,筋力トレーニングによる改善効果についての一致した結果は得られていなかった。この理由として,歩行機能に変化を与えるためにどの程度の筋力が必要なのかが明確でないことが影響している可能性がある。したがって,退院後の屋外歩行が自立するために必要な筋力の閾値を明確にすることが求められる。本研究の目的は,地域在住で自立した歩行が可能である維持期の脳卒中後片麻痺者150名の筋力データを検討し,各下肢筋力の屋外自立歩行可能となるためのカットオフ値を検討することである。

【方法】2008年から2016年までの間に川村義肢株式会社の協力を得て,大阪と東京の二会場にて,歩行機能および筋力の測定を行った。測定における包含基準は,20歳以上の回復期病院を退院した地域在住の脳血管障害後片麻痺者とし,パーキンソニズムや小脳失調,歩行に影響を与える整形外科的疾患を有するものを除外した。研究の参加に同意した150名(男性90名,女性60名)に対して,10m歩行速度(TWT),Timed Up and Go test(TUG)および筋力測定を行った。両側の股屈曲,膝屈伸,および足底背屈の筋力を徒手筋力計(アニマ社製μTAS)により測定し,トルク体重比を算出した。筋力の測定はすべての同一の検査者により行われた(級内相関係数:0.97-0.99)。まず,各筋力および総合筋力(膝屈伸展筋と足底背屈筋の和)と,TWT,TUG,年齢,発症からの期間の関連をPearson相関係数により検討した。次に,TWTの結果に基づいて,0.4m/sを屋外歩行の可否を分ける基準とし(Peery,1995),各筋力と総合筋力,およびそれぞれの麻痺側非麻痺側比(PNP比)についてのカットオフ値をROC曲線により決定した。本研究における有意水準は5%とした。

【結果】測定したすべての筋力および総合筋力はTWT,TUGと有意な正の相関を示し,足関節筋以外は年齢と有意な負の相関を示した。すべての筋力,総合筋力,およびPNP比の曲線下面積(AUC)は有意な値を示し,中等度の判別能を有していた。単一の筋力のAUCは麻痺側膝伸展筋力が最も高く,非麻痺側膝屈曲筋力が最も低かった。また,麻痺側総合筋力とそのPNP比においてAUCは最も高い値を示した。各筋のPNP比におけるカットオフ値は,股屈曲56.0%,膝屈曲45.8%,膝伸展61.8%,足背屈33.8%,足底屈30.8%,総合筋力では48.7%となり,オッズ比は2倍から6倍程度となった。

【結論】筋力のみで屋外歩行の可否を決める判別能力は高いとは言えないが,今回の結果から,股,膝関節では非麻痺側の50-60%,足関節では30%,総合筋力50%程度をトレーニング目標とすることが推奨された。この値は回復期の下肢筋力目標の概算に役立つと考える。