[P-HT-05-1] 末期腎不全を有する患者に対し人工股関節全置換術後の理学療法を実施した経験
Keywords:末期腎不全, 人工股関節全置換術, 運動負荷
【はじめに,目的】
人工透析を行っていない末期腎不全(以下ESKD)患者に対する運動療法の有効性の報告は少ない。また,慢性腎不全(以下CKD)患者に対する心肺運動負荷試験などの報告は散見するが,ADLが低い症例の報告は少数である。今回5ヵ月間歩行が困難でADLが低下したESKD患者に対し人工股関節全置換術(以下THA)後の理学療法(以下PT)を経験したので報告する。
【方法】
76歳女性。診断名は左変形性股関節症。既往に肺化膿症とネフローゼ症候群がある。元々ADL自立し清掃業の仕事をしていたが,入院5ヵ月前に肺化膿症を契機にネフローゼ症候群の診断を受けた。肺化膿症は軽快したが浮腫や貧血,低蛋白血症が残存し人工透析の適応も本人の意思で保存療法となった。以来ベッド上の生活となり,ポータブルトイレへの移乗は見守りで左股関節に強い疼痛が生じていた。外出は週に2~3回デイサービスに車椅子で通っていた。本人が歩行の獲得を強く希望し,THAを施行するため再入院となった。術前のMMTは上下肢3~4で左股関節周囲は2であり,左股関節の荷重時痛が強く足踏みが困難であった。生化学検査はCr3.0mg/dl,eGFR12.4mL/分/1.73m2,BUN40.1mg/dl,Hb10.7g/dl,アルブミン2.9g/dl,尿蛋白量は668mg/dlであった。術前と術後よりPTを開始しROMex,筋力強化や基本動作練習,歩行練習を行った。PTを実施する際,自覚的運動強度は修正Borg scale3とした。ステロイドや免疫抑制剤は使用していなかった。
【結果】
術後1日目から離床を開始し,2日目から筋力強化と平行棒内で歩行練習を行った。9日目より病棟内車椅子自立とした。15日目にシルバーカーにて歩行練習を開始し,30日目に独歩の練習を行った。46日目にMMTは上下肢4で左股関節周囲は3~4と向上し,基本動作自立,自宅内伝い歩き自立,シルバーカー40m見守りにて自宅退院となった。生化学検査は運動負荷や身体活動量が向上してもデータの悪化は認められなかった。退院時はCr3.3mg/dl,eGFR11.6 mL/分/1.73m2,BUN45mg/dl,Hb9.1g/dl,アルブミン2.7g/dl,尿蛋白量は256mg/dlであった。
【結論】
CKD診療ガイドライン2013などCKD患者に対する運動療法は徐々にエビデンスが蓄積されてきている。しかし,ネフローゼ症候群はネフローゼ症候群診療ガイドライン2014において安静・運動制限の有効性は明らかではないので推奨しない程度である。また人工透析未実施のESKD患者では必要最低限の動作練習やADL練習が推奨されている。
本症例では約半年間歩行しておらず廃用症候群による筋力低下も認めたため,THAによる除痛と動作練習のみでは歩行能力の獲得が困難と思われた。そのため,修正Borg scale 3の運動強度で腎機能を確認しながら運動療法を行った。結果,筋力と歩行能力が向上し腎不全の悪化もみられず運動療法の有効性が示唆された。今後は症例数を増やし,ESKD患者への運動療法の有効性と安全性をさらに検討していく必要がある。
人工透析を行っていない末期腎不全(以下ESKD)患者に対する運動療法の有効性の報告は少ない。また,慢性腎不全(以下CKD)患者に対する心肺運動負荷試験などの報告は散見するが,ADLが低い症例の報告は少数である。今回5ヵ月間歩行が困難でADLが低下したESKD患者に対し人工股関節全置換術(以下THA)後の理学療法(以下PT)を経験したので報告する。
【方法】
76歳女性。診断名は左変形性股関節症。既往に肺化膿症とネフローゼ症候群がある。元々ADL自立し清掃業の仕事をしていたが,入院5ヵ月前に肺化膿症を契機にネフローゼ症候群の診断を受けた。肺化膿症は軽快したが浮腫や貧血,低蛋白血症が残存し人工透析の適応も本人の意思で保存療法となった。以来ベッド上の生活となり,ポータブルトイレへの移乗は見守りで左股関節に強い疼痛が生じていた。外出は週に2~3回デイサービスに車椅子で通っていた。本人が歩行の獲得を強く希望し,THAを施行するため再入院となった。術前のMMTは上下肢3~4で左股関節周囲は2であり,左股関節の荷重時痛が強く足踏みが困難であった。生化学検査はCr3.0mg/dl,eGFR12.4mL/分/1.73m2,BUN40.1mg/dl,Hb10.7g/dl,アルブミン2.9g/dl,尿蛋白量は668mg/dlであった。術前と術後よりPTを開始しROMex,筋力強化や基本動作練習,歩行練習を行った。PTを実施する際,自覚的運動強度は修正Borg scale3とした。ステロイドや免疫抑制剤は使用していなかった。
【結果】
術後1日目から離床を開始し,2日目から筋力強化と平行棒内で歩行練習を行った。9日目より病棟内車椅子自立とした。15日目にシルバーカーにて歩行練習を開始し,30日目に独歩の練習を行った。46日目にMMTは上下肢4で左股関節周囲は3~4と向上し,基本動作自立,自宅内伝い歩き自立,シルバーカー40m見守りにて自宅退院となった。生化学検査は運動負荷や身体活動量が向上してもデータの悪化は認められなかった。退院時はCr3.3mg/dl,eGFR11.6 mL/分/1.73m2,BUN45mg/dl,Hb9.1g/dl,アルブミン2.7g/dl,尿蛋白量は256mg/dlであった。
【結論】
CKD診療ガイドライン2013などCKD患者に対する運動療法は徐々にエビデンスが蓄積されてきている。しかし,ネフローゼ症候群はネフローゼ症候群診療ガイドライン2014において安静・運動制限の有効性は明らかではないので推奨しない程度である。また人工透析未実施のESKD患者では必要最低限の動作練習やADL練習が推奨されている。
本症例では約半年間歩行しておらず廃用症候群による筋力低下も認めたため,THAによる除痛と動作練習のみでは歩行能力の獲得が困難と思われた。そのため,修正Borg scale 3の運動強度で腎機能を確認しながら運動療法を行った。結果,筋力と歩行能力が向上し腎不全の悪化もみられず運動療法の有効性が示唆された。今後は症例数を増やし,ESKD患者への運動療法の有効性と安全性をさらに検討していく必要がある。