[P-KS-01-1] 後方ステップ動作における動作開始時のエネルギー産出
Keywords:ステップ動作, エネルギー産出, 動的バランス
【はじめに,目的】
ステップ動作開始時,脚を踏み出すために下肢筋群の求心性収縮によるエネルギー産出(正の仕事)が必要となる。この仕事に関する所見は筋トルクや筋パワーの情報と共に,動作に対する貢献度や収縮形態の違い等の運動力学的因子を推察する上で貴重な知見を与えてくれる。前方ステップや側方ステップに関する運動力学的解析の報告は散見されるが,後方ステップに関する報告は殆ど見当たらない。本研究は,後方ステップ動作における動作開始時のエネルギー産出に焦点を当て,運動力学的特徴と状況の異なる場面での反応の違いによる差を検討することを目的とした。
【方法】
健常若年成人27名(年齢21±1歳)を対象とした。使用機器は三次元動作解析装置(VMS社:Plug-in Gait Full Body Model)と床反力計(Kistler社)とし,サンプリング周波数は200 Hz,1,000 Hzとした。
課題動作は①安定性限界超過後のステップ動作(安定性限界),②振り子運動により体重の10%相当の外力を身体に加えた際のステップ動作(物体衝突),③自発的なステップ動作(自発)の3課題とした。静止立位から接地後の安定肢位に戻るまでの期間を測定し,その中でエネルギー産出に関与する運動力学因子(関節トルク,仕事量)は静止立位から接地直前までを解析対象とした。各関節の正の仕事量は正の関節パワーを積分して求め,体重で正規化した。時空間因子の影響をみるために,ステップ長や平均ステップ速度を求めた。
各関節での正の仕事量に関する課題間の比較はFriedman検定,及びHolmの検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
ステップ長と平均ステップ速度は安定性限界と物体衝突が自発よりも有意に大きな値を示した。
踏み出し脚では,股関節の正の仕事量(J/kg)は安定性限界0.14,物体衝突0.02,自発0.01であり,伸展トルクが働いた。膝関節はそれぞれ0.14,0.09,0.02であり屈曲トルクが働き,足関節では殆ど生じなかった。股関節や膝関節では安定性限界と物体衝突が自発より有意に大きな値を示した。
支持脚では,股関節の正の仕事量は安定性限界0.08,物体衝突0.04,自発0.04であり,屈曲トルクが働き,足関節は自発以外殆ど生じなかった。全ての関節で安定性限界が物体衝突より有意に大きな値を示した。
【結論】
後方へ踏み出すためのエネルギー産出は,踏み出し脚膝関節屈曲筋群が全下肢の約50%,支持脚股関節屈曲筋群が約30%を占め,これらの筋群の求心性収縮が重要であると推察される。支持脚足関節の安定性限界や物体衝突において正の仕事量が殆ど生じなかった理由として,安定性限界ではステップ開始時の重心線が後方移動する事,物体衝突では衝突時の外的エネルギーをステップ動作へ利用する事が考えられる。また安定性限界で大きな値を示した理由としてステップ長や平均ステップ速度の影響が考えられる。
本研究結果は,バランストレーニング等を行う際に有用な情報として使用可能と考えられる。
ステップ動作開始時,脚を踏み出すために下肢筋群の求心性収縮によるエネルギー産出(正の仕事)が必要となる。この仕事に関する所見は筋トルクや筋パワーの情報と共に,動作に対する貢献度や収縮形態の違い等の運動力学的因子を推察する上で貴重な知見を与えてくれる。前方ステップや側方ステップに関する運動力学的解析の報告は散見されるが,後方ステップに関する報告は殆ど見当たらない。本研究は,後方ステップ動作における動作開始時のエネルギー産出に焦点を当て,運動力学的特徴と状況の異なる場面での反応の違いによる差を検討することを目的とした。
【方法】
健常若年成人27名(年齢21±1歳)を対象とした。使用機器は三次元動作解析装置(VMS社:Plug-in Gait Full Body Model)と床反力計(Kistler社)とし,サンプリング周波数は200 Hz,1,000 Hzとした。
課題動作は①安定性限界超過後のステップ動作(安定性限界),②振り子運動により体重の10%相当の外力を身体に加えた際のステップ動作(物体衝突),③自発的なステップ動作(自発)の3課題とした。静止立位から接地後の安定肢位に戻るまでの期間を測定し,その中でエネルギー産出に関与する運動力学因子(関節トルク,仕事量)は静止立位から接地直前までを解析対象とした。各関節の正の仕事量は正の関節パワーを積分して求め,体重で正規化した。時空間因子の影響をみるために,ステップ長や平均ステップ速度を求めた。
各関節での正の仕事量に関する課題間の比較はFriedman検定,及びHolmの検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
ステップ長と平均ステップ速度は安定性限界と物体衝突が自発よりも有意に大きな値を示した。
踏み出し脚では,股関節の正の仕事量(J/kg)は安定性限界0.14,物体衝突0.02,自発0.01であり,伸展トルクが働いた。膝関節はそれぞれ0.14,0.09,0.02であり屈曲トルクが働き,足関節では殆ど生じなかった。股関節や膝関節では安定性限界と物体衝突が自発より有意に大きな値を示した。
支持脚では,股関節の正の仕事量は安定性限界0.08,物体衝突0.04,自発0.04であり,屈曲トルクが働き,足関節は自発以外殆ど生じなかった。全ての関節で安定性限界が物体衝突より有意に大きな値を示した。
【結論】
後方へ踏み出すためのエネルギー産出は,踏み出し脚膝関節屈曲筋群が全下肢の約50%,支持脚股関節屈曲筋群が約30%を占め,これらの筋群の求心性収縮が重要であると推察される。支持脚足関節の安定性限界や物体衝突において正の仕事量が殆ど生じなかった理由として,安定性限界ではステップ開始時の重心線が後方移動する事,物体衝突では衝突時の外的エネルギーをステップ動作へ利用する事が考えられる。また安定性限界で大きな値を示した理由としてステップ長や平均ステップ速度の影響が考えられる。
本研究結果は,バランストレーニング等を行う際に有用な情報として使用可能と考えられる。