[P-KS-07-5] 目的共有が運動主体感と運動学習を促進する
Keywords:運動学習, 運動主体感, intentional binding
【はじめに】
理学療法士と対象者の目的共有が運動パフォーマンスの効果を左右する(Levack,2006)。しかし,目的共有によるその効果の促進がどのような要因によって引き出されるかは明らかでない。本研究では,目的共有によって生じる運動の主体性(運動主体感)が運動学習(motor leraning:ML)効果に関連するという仮説を立て,運動主体感(sense of agency:SoA)を定量的に評価する手続きであるIntentional Binding(IB)課題を作成し,その仮説を検証した。
【方法】
対象を健常若年者18名とし,共有群(10名)と非共有群(8名)に無作為に分けた。ML効果とIBを計測するML課題をLabVIEW(National Instruments社)を用いて作成した。共有群の課題は,PCディスプレイ上で横方向に67.5cm/secの速度で反復運動する円形オブジェクトを被験者がキー押しによって画面中央で止め,その止められた場所から再び縦方向に動き出す円形オブジェクトをもう1人がキー押しによって止めた。2人によって止められた円形オブジェクトと画面中央との誤差(エラー)の座標データに基づいて課題成績をスコア化して表示し,スコアを多く獲得するという目的共有課題を実施した。一方,非共有群では,ペアで交互に課題を行うがパートナーの結果は反映されず,自分のスコアだけが表示されるようにした。課題は18試行含まれるブロックを10ブロック実施した。ML指標はエラーの標準編差とし,学習段階を初期(1-3ブロック)・中期(4-6ブロック)・後期(7-10ブロック)に分け,初期-中期の学習効果(初期から中期を除した値),初期-後期の学習効果(初期から後期を除した値)を算出した。IBは,キー押しの200,500,700msec後にbeep音を鳴らし,被験者とパートナーには押した直後から何msec後にbeep音が聞こえたかの回答を求めた。なおSoAが惹起されているほど,キー押しとbeep音の間隔を短く感じることから(Haggard,2002),被験者とパートナーの回答時間をSoAの定量的数値(SoA値)とした。そして,被験者とパートナーのSoA値の差分を算出した。この値が0に近いほどパートナーのキー押しに対してもSoAが生起されていることを意味する。各学習段階での学習効果をt検定,SoA値をマンホイットニーのU検定を用い群間比較した。有意水準は5%とした。
【結果】
ML効果は非共有群よりも共有群の方が初期-中期で有意に学習効果が高かった(p<0.05)。SoA値は共有群-4.6msec,非共有群-23.5msecであり,共有群の方が自己とパートナーのSoA値の差が有意に小さかった(p<0.05)。
【結論】
目的共有が初期から中期のMLを促進させることが明らかとなった。また,目的共有によって他者の行為を観察している際にも自己が運動している時と同様にSoAが惹起していた。目的共有による学習促進効果は,主体性をもった運動観察によるものであることが示唆され,対象者が理学療法士の行為を観察することは有効な手段である可能性が示唆された。
理学療法士と対象者の目的共有が運動パフォーマンスの効果を左右する(Levack,2006)。しかし,目的共有によるその効果の促進がどのような要因によって引き出されるかは明らかでない。本研究では,目的共有によって生じる運動の主体性(運動主体感)が運動学習(motor leraning:ML)効果に関連するという仮説を立て,運動主体感(sense of agency:SoA)を定量的に評価する手続きであるIntentional Binding(IB)課題を作成し,その仮説を検証した。
【方法】
対象を健常若年者18名とし,共有群(10名)と非共有群(8名)に無作為に分けた。ML効果とIBを計測するML課題をLabVIEW(National Instruments社)を用いて作成した。共有群の課題は,PCディスプレイ上で横方向に67.5cm/secの速度で反復運動する円形オブジェクトを被験者がキー押しによって画面中央で止め,その止められた場所から再び縦方向に動き出す円形オブジェクトをもう1人がキー押しによって止めた。2人によって止められた円形オブジェクトと画面中央との誤差(エラー)の座標データに基づいて課題成績をスコア化して表示し,スコアを多く獲得するという目的共有課題を実施した。一方,非共有群では,ペアで交互に課題を行うがパートナーの結果は反映されず,自分のスコアだけが表示されるようにした。課題は18試行含まれるブロックを10ブロック実施した。ML指標はエラーの標準編差とし,学習段階を初期(1-3ブロック)・中期(4-6ブロック)・後期(7-10ブロック)に分け,初期-中期の学習効果(初期から中期を除した値),初期-後期の学習効果(初期から後期を除した値)を算出した。IBは,キー押しの200,500,700msec後にbeep音を鳴らし,被験者とパートナーには押した直後から何msec後にbeep音が聞こえたかの回答を求めた。なおSoAが惹起されているほど,キー押しとbeep音の間隔を短く感じることから(Haggard,2002),被験者とパートナーの回答時間をSoAの定量的数値(SoA値)とした。そして,被験者とパートナーのSoA値の差分を算出した。この値が0に近いほどパートナーのキー押しに対してもSoAが生起されていることを意味する。各学習段階での学習効果をt検定,SoA値をマンホイットニーのU検定を用い群間比較した。有意水準は5%とした。
【結果】
ML効果は非共有群よりも共有群の方が初期-中期で有意に学習効果が高かった(p<0.05)。SoA値は共有群-4.6msec,非共有群-23.5msecであり,共有群の方が自己とパートナーのSoA値の差が有意に小さかった(p<0.05)。
【結論】
目的共有が初期から中期のMLを促進させることが明らかとなった。また,目的共有によって他者の行為を観察している際にも自己が運動している時と同様にSoAが惹起していた。目的共有による学習促進効果は,主体性をもった運動観察によるものであることが示唆され,対象者が理学療法士の行為を観察することは有効な手段である可能性が示唆された。