[P-KS-18-2] 高齢者の起き上がり動作における呼吸運動分析
―動作開始時に着目して
Keywords:高齢者, 起き上がり動作, 呼吸
【はじめに,目的】
急性期理学療法において,開腹術後症例の離床時における術創部の疼痛が問題となる場面も散見される。我々は第48・49回日本理学療法学術大会にて,腹部手術(腎生検と鼠径ヘルニア修復術)後症例に対する起き上がり動作時の術創部疼痛が呼気運動を促すことで軽減したことを報告した。第51回本大会では,起き上がり動作における呼吸状態について健常成人を対象に調査し,動作開始時の吸状呼態は一回換気量の50%以上が有意に多いことを報告し,開腹術直後の起き上がり動作の呼吸状態は吸気位であることが考えられた。しかし腹部術症例では高齢者も多く,この調査の対象を高齢者にする必要性が考えられ,その状況を知ることが腹部術後症例にとって有益な知見と考える。そこで,本研究では高齢者の起き上がり動作における呼吸状態について調査した。
【方法】
対象者は起き上がり動作に影響する疾患の既往が無い高齢者23名(男性3名,女性20名,平均78.9±8.2歳)であった。課題動作は背臥位から端座位までと,側臥位から端座位までの2つの起き上がり動作とし,開始肢位にて安静呼吸を3回以上行わせ,その後に自由意志で動作を開始させた。ノーズクリップで鼻孔を閉鎖し,呼吸フローセンサーで換気量を計測した。また頭部拳上時の信号も同期させた。データから呼吸曲線を作図し,一回換気量を算出した。対象者には起き上がり動作を2回実施させ,頭部拳上時の換気量における一回換気量に対する割合が50%以上を吸気位,50%未満を呼気位と定義した。また安静呼吸時の1秒間の平均換気量(安静時換気量)と頭部拳上後から1秒間の換気量(動作時換気量)を算出した。吸気位の人数と呼気位の人数の割合はχ2検定を用い,また安静時換気量と動作時換気量の比較を対応のあるt-検定を用いてと検討した。なお,統計学的有意水準を5%とした。
【結果】
起き上がり動作開始時の呼吸状態は,背臥位からの起き上がり動作では吸気位が20人,呼気位が3人で吸気位の割合が呼気位よりも有意に多く(p=0.00039),側臥位からの起き上がり動作でも吸気位が19人,呼気位が3人で吸気位の割合が呼気位よりも有意に多かった(p=0.02)。安静時換気量と動作時換気量の比較では,背臥位からの起き上がり,および側臥位からの起き上がりとも安静換気量よりも動作時換気量が有意に減少した(背臥位からp=0.014,側臥位からp=0.00023)。
【結論】
高齢者においては,背臥位からの起き上がり動作および,側臥位からの起き上がり動作とも,動作開始時の呼吸状態は吸気位で,動作開始後も換気量が減少していた。吸気位では横隔膜が収縮降下し,腹筋群が伸長され,静止張力が多く発生し,活動張力を減少にすることが可能であり,本研究における起き上がり動作開始時の呼吸状態を吸気位にしていたと考えられる。今後は,起き上がり動作終了までの呼吸状態も調査する必要性が考えられた。
急性期理学療法において,開腹術後症例の離床時における術創部の疼痛が問題となる場面も散見される。我々は第48・49回日本理学療法学術大会にて,腹部手術(腎生検と鼠径ヘルニア修復術)後症例に対する起き上がり動作時の術創部疼痛が呼気運動を促すことで軽減したことを報告した。第51回本大会では,起き上がり動作における呼吸状態について健常成人を対象に調査し,動作開始時の吸状呼態は一回換気量の50%以上が有意に多いことを報告し,開腹術直後の起き上がり動作の呼吸状態は吸気位であることが考えられた。しかし腹部術症例では高齢者も多く,この調査の対象を高齢者にする必要性が考えられ,その状況を知ることが腹部術後症例にとって有益な知見と考える。そこで,本研究では高齢者の起き上がり動作における呼吸状態について調査した。
【方法】
対象者は起き上がり動作に影響する疾患の既往が無い高齢者23名(男性3名,女性20名,平均78.9±8.2歳)であった。課題動作は背臥位から端座位までと,側臥位から端座位までの2つの起き上がり動作とし,開始肢位にて安静呼吸を3回以上行わせ,その後に自由意志で動作を開始させた。ノーズクリップで鼻孔を閉鎖し,呼吸フローセンサーで換気量を計測した。また頭部拳上時の信号も同期させた。データから呼吸曲線を作図し,一回換気量を算出した。対象者には起き上がり動作を2回実施させ,頭部拳上時の換気量における一回換気量に対する割合が50%以上を吸気位,50%未満を呼気位と定義した。また安静呼吸時の1秒間の平均換気量(安静時換気量)と頭部拳上後から1秒間の換気量(動作時換気量)を算出した。吸気位の人数と呼気位の人数の割合はχ2検定を用い,また安静時換気量と動作時換気量の比較を対応のあるt-検定を用いてと検討した。なお,統計学的有意水準を5%とした。
【結果】
起き上がり動作開始時の呼吸状態は,背臥位からの起き上がり動作では吸気位が20人,呼気位が3人で吸気位の割合が呼気位よりも有意に多く(p=0.00039),側臥位からの起き上がり動作でも吸気位が19人,呼気位が3人で吸気位の割合が呼気位よりも有意に多かった(p=0.02)。安静時換気量と動作時換気量の比較では,背臥位からの起き上がり,および側臥位からの起き上がりとも安静換気量よりも動作時換気量が有意に減少した(背臥位からp=0.014,側臥位からp=0.00023)。
【結論】
高齢者においては,背臥位からの起き上がり動作および,側臥位からの起き上がり動作とも,動作開始時の呼吸状態は吸気位で,動作開始後も換気量が減少していた。吸気位では横隔膜が収縮降下し,腹筋群が伸長され,静止張力が多く発生し,活動張力を減少にすることが可能であり,本研究における起き上がり動作開始時の呼吸状態を吸気位にしていたと考えられる。今後は,起き上がり動作終了までの呼吸状態も調査する必要性が考えられた。