[P-KS-25-2] 矢状面上の体幹質量中心位置の変位は前額面の歩行ダイナミクスに影響する
Keywords:歩行, 運動制御, 重心
【はじめに,目的】
脊柱の後弯変形や妊娠により体幹の質量中心位置は矢状面上で変化する。この矢状面上の身体的変化は,歩行に大きな影響を及ぼす可能性がある。先行研究では,歩行における矢状面上の体節運動が体幹の前額面上の加速度に寄与すること(Nott, et al., 2010)や,矢状面と比較して前額面での制御が必要であること(Kuo, et al., 2000)が示されている。これらのことから,体幹の矢状面上の質量中心位置の変位も歩行における前額面のダイナミクスに影響する可能性があるが,その具体的影響は明らかでない。そこで,本研究は体幹の矢状面上の質量中心位置を負荷によって擬似的に変化させ,質量中心位置の違いが前額面の歩行ダイナミクスに与える影響を明らかにすることを目的に行った。
【方法】
対象は健常男性6名(身長169.3±3.7cm,体重61.3±5.2kg)。課題は快適歩行速度での2分間連続歩行とし,1分間経過後の50ストライドを対象とした。体幹負荷は専用のベストを用い,体重の10%を負荷量とした。負荷条件は①通常歩行,②負荷なし(ベストのみ装着),③前方,④正中,⑤後方の5条件とし,ランダム化した順序で実施した。
計測には三次元動作解析装置(VICON社製)と床反力計付きトレッドミル(BERTEC社製)を用い,モデルにはPlug in Gait fullbody AI modelを使用した。
算出した変数は歩隔と1歩行周期中の矢状面,前額面上の体幹,骨盤の体節角度と角速度の振幅,身体重心(COM)の前額面上の位置と速度の振幅に加え,前額面上の動的な安定性を評価するために,速度で外挿したCOM位置(extrapolated COM,XCOM)の振幅とXCOMと支持基底面の距離で示されるMargin of stability(MOS)の平均値と最小値を用いた。
統計解析はK-S検定による正規性検定後に,フリードマン検定を実施し,事後検定としてウィルコクソン符号付順位検定とHolm法を用いた。有意水準は5%未満とした。データ処理・統計解析にはMATLAB R2016a(MathWorks社製)を用いた。
【結果】
COM位置,矢状面上の体幹角度は各条件において有意な差を認めなかった。歩行の動的な安定性を示すMOSの平均値,最小値ともに後方条件が正中と比較して有意に低値を示した(平均値[後方:67.9mm,正中:64.0mm];p<0.01,最小値[後方:28.5mm,正中:21.6mm];p<0.05)。歩隔は後方が前方,負荷なしと比較して有意に高値を示し(後方:171.7mm,前方:160.5mm,負荷なし:154.3mm;p<0.05),他の条件に対しても高値を示す傾向にあった(正中:154.3mm,通常:151.5mm)。
【結論】
体幹質量中心位置の変位は,歩行中の前額面上のCOM位置や矢状面上の体幹角度には影響しないことが明らかとなった。一方で,動的な安定性を示すMOSと歩隔は後方条件で高値を示した。MOSは歩隔に依存する値であるため,体幹の質量中心の後方化に伴い,歩隔を拡大することで通常より大きな安定性を担保する戦略を有することが示唆された。本研究によって歩隔が拡大した歩容の改善には前額面上だけでなく矢状面上の身体変化に着目する必要性が示された。
脊柱の後弯変形や妊娠により体幹の質量中心位置は矢状面上で変化する。この矢状面上の身体的変化は,歩行に大きな影響を及ぼす可能性がある。先行研究では,歩行における矢状面上の体節運動が体幹の前額面上の加速度に寄与すること(Nott, et al., 2010)や,矢状面と比較して前額面での制御が必要であること(Kuo, et al., 2000)が示されている。これらのことから,体幹の矢状面上の質量中心位置の変位も歩行における前額面のダイナミクスに影響する可能性があるが,その具体的影響は明らかでない。そこで,本研究は体幹の矢状面上の質量中心位置を負荷によって擬似的に変化させ,質量中心位置の違いが前額面の歩行ダイナミクスに与える影響を明らかにすることを目的に行った。
【方法】
対象は健常男性6名(身長169.3±3.7cm,体重61.3±5.2kg)。課題は快適歩行速度での2分間連続歩行とし,1分間経過後の50ストライドを対象とした。体幹負荷は専用のベストを用い,体重の10%を負荷量とした。負荷条件は①通常歩行,②負荷なし(ベストのみ装着),③前方,④正中,⑤後方の5条件とし,ランダム化した順序で実施した。
計測には三次元動作解析装置(VICON社製)と床反力計付きトレッドミル(BERTEC社製)を用い,モデルにはPlug in Gait fullbody AI modelを使用した。
算出した変数は歩隔と1歩行周期中の矢状面,前額面上の体幹,骨盤の体節角度と角速度の振幅,身体重心(COM)の前額面上の位置と速度の振幅に加え,前額面上の動的な安定性を評価するために,速度で外挿したCOM位置(extrapolated COM,XCOM)の振幅とXCOMと支持基底面の距離で示されるMargin of stability(MOS)の平均値と最小値を用いた。
統計解析はK-S検定による正規性検定後に,フリードマン検定を実施し,事後検定としてウィルコクソン符号付順位検定とHolm法を用いた。有意水準は5%未満とした。データ処理・統計解析にはMATLAB R2016a(MathWorks社製)を用いた。
【結果】
COM位置,矢状面上の体幹角度は各条件において有意な差を認めなかった。歩行の動的な安定性を示すMOSの平均値,最小値ともに後方条件が正中と比較して有意に低値を示した(平均値[後方:67.9mm,正中:64.0mm];p<0.01,最小値[後方:28.5mm,正中:21.6mm];p<0.05)。歩隔は後方が前方,負荷なしと比較して有意に高値を示し(後方:171.7mm,前方:160.5mm,負荷なし:154.3mm;p<0.05),他の条件に対しても高値を示す傾向にあった(正中:154.3mm,通常:151.5mm)。
【結論】
体幹質量中心位置の変位は,歩行中の前額面上のCOM位置や矢状面上の体幹角度には影響しないことが明らかとなった。一方で,動的な安定性を示すMOSと歩隔は後方条件で高値を示した。MOSは歩隔に依存する値であるため,体幹の質量中心の後方化に伴い,歩隔を拡大することで通常より大きな安定性を担保する戦略を有することが示唆された。本研究によって歩隔が拡大した歩容の改善には前額面上だけでなく矢状面上の身体変化に着目する必要性が示された。