第52回日本理学療法学術大会

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-27] ポスター(基礎)P27

2017年5月13日(土) 12:50 〜 13:50 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-27-2] 継続的な運動は慢性痛有訴者の中枢性疼痛修飾機能を改善させうるか

井澤 康祐1, 伊藤 慎也1, 水口 淳1, 長谷川 雄也1, 松澤 明黎1, 佐藤 亜紀1, 城 由起子2, 松原 貴子1 (1.日本福祉大学健康科学部, 2.名古屋学院大学リハビリテーション学部)

キーワード:運動継続, 中枢性疼痛修飾機能, 慢性痛

【はじめに,目的】慢性痛の病態として中枢性疼痛修飾系の機能異常が指摘されている。慢性痛患者では中枢性疼痛修飾系の破綻により,temporal summation(TS)の増幅などで示される中枢性感作を呈することや下行性疼痛調節系の機能を反映するとされる“痛みで痛みを抑制する”DNIC(diffuse noxious inhibitory controls)現象が生じ難いことなどが示されている。また,慢性痛患者における運動の疼痛制御機構についても,運動による即時的鎮痛効果として知られるexercise-induced hypoalgesiaが得られ難く,高強度の単発的な運動では逆に痛覚過敏を惹起することも報告されている。一方で,慢性痛に対するマネジメントとして運動は強く推奨されており,我々は低~中強度レベルの身体活動性の増大が慢性痛を軽減させることを報告した(Matsubara 2010)。しかし,定期的な運動による中枢性疼痛修飾機能への影響について調べた報告は見受けられない。そこで本研究は,2週間の継続的な運動介入が中枢性疼痛修飾機能へもたらす影響について,TSを評価指標とし検討した。

【方法】対象は健常者14名(健常群:男性7名,年齢20.5±1.2歳)と慢性頚肩痛有訴者14名(頚肩痛群:男性7名,年齢20.6±1.6歳,疼痛強度visual analogue scale:VAS 27.0±10.2mm)とした。運動介入は下肢ペダリング運動(強度50% HRR,20分間)を週3回,2週間実施した。疼痛評価は,利き手側の僧帽筋(頚肩痛群における有痛部),上腕二頭筋(非運動部),大腿四頭筋(運動部)の圧痛閾値(PPT),圧痛強度(PPR),TSとし,2週間の運動介入前と終了翌日に測定した。PPRは介入前のPPT×125%の強度で加圧した際の痛覚強度をVASにて測定した。TSは,PPRを10回連続で測定し,1回目のPPRを基準とした各PPR変化量の合計を測定値とした。統計学的解析は,Friedman検定およびTukey-typeの多重比較検定,またはWilcoxonの符号付き順位検定を用い,有意水準を全て5%未満とした。

【結果】2週間の運動介入により,健常群,頚肩痛群ともに全ての部位でPPTは有意に上昇し,PPRは有意に減弱した。一方,TSは頚肩痛群でのみ全ての部位で有意な減衰を認めた。

【結論】20分間の低強度運動を週3回,2週間行っただけにも関わらず,健常者,慢性頚肩痛有訴者ともに有痛部を含む広範な痛覚感受性の低下が得られた。さらに慢性頚肩痛有訴者においてはTSの減衰,つまり上行性疼痛伝達系の感作抑制を認め,中枢性疼痛修飾系の機能が向上したと考えられた。活動性の低下と同様に,過活動も痛みの増強因子となることは知られており,慢性痛に対する運動指導においてペーシングの重要性が指摘されている。今回の結果からも,競技スポーツのような高強度の運動を高頻度で行う必要はなく,ウォーキングやサイクリングといった日常生活レベルでの運動を定期的に習慣として慣行することで中枢性疼痛修飾系の機能改善につながる可能性が示唆された。