第52回日本理学療法学術大会

講演情報

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-29] ポスター(基礎)P29

2017年5月13日(土) 12:50 〜 13:50 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-29-3] 間葉系幹細胞投与による外科手術後の脊髄虚血再灌流障害の予防法の検討

中川 慧1, 高橋 信也2, 猪村 剛史1, 大塚 貴志1, 富安 真弓1, Looniva Shrestha1, 末田 泰二郎2, 河原 裕美3, 弓削 類1,3 (1.広島大学大学院医歯薬保健学研究院生体環境適応科学研究室, 2.広島大学病院心臓血管外科, 3.株式会社スペース・バイオ・ラボラトリーズ)

キーワード:脊髄虚血再灌流, 間葉系幹細胞, 神経保護効果

【はじめに,目的】

胸部・胸腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術等の外科手術による重篤な合併症の一つに脊髄虚血再灌流障害による対麻痺が挙げられ,多くの患者が後遺症に悩まされている。これまで多くの予防法が検討されているが,いまだ根治的な予防法は見つかっていない。そこで本研究では,間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells:以下,MSCs)の移植が,合併症の予防につながるのではないかと考え,脊髄虚血再灌流モデルラットを作成し,MSCsの移植効果を検討することを目的とした。

【方法】

脊髄虚血再灌流モデルの作成には,雄性SDラット(400~500g)を使用した。体温を38℃で一定にさせ,麻酔下にて,2Frフォガティカテーテルを左大腿動脈から左鎖骨下動脈にかけて挿入した。左頸動脈からは20ゲージのカテーテルを挿入し,動脈圧が40mmHgになるよう瀉血した。40mmHgになるとすぐに,フォガティカテーテルを0.05mL膨らませ,左鎖骨下動脈遠位部で虚血した。移植には,ラット脛骨および大腿骨から採取した骨髄由来のMSCsを用い,術後すぐに左頚動脈内カテーテルから投与した。投与量は1×107個とし,400μLのPBSに懸濁した(MSC群)。また,400μLのPBSのみ投与する群(PBS群),手術はするが虚血は行わない群(Sham群)も作成した。

移植後の運動麻痺の程度は,BBB scoreおよびInclined plane testを用いて評価した。また,移植1日後の脊髄を採取し,脊髄組織の損傷の程度を評価した。さらに移植細胞の同定のため,SD-Tg(CAG-EGFP)ラットから採取したMSCsを移植し,採取した移植1日後の脊髄から抗GFP抗体を用い,酵素抗体法による免疫組織化学染色を行った。



【結果】

術後,MSC群,PBS群いずれも両後肢に麻痺がみられたが,その麻痺の程度に差がみられた。術後1日の時点では,BBB scoreおよびInclined plane testのスコアがMSC群で有意に高値を示した(p<0.05)。脊髄組織では,虚血再灌流による核濃縮や空胞変性が観察されたが,その程度はMSCs投与により減少した。また,移植したMSCsの一部は,脊髄組織内に生着していることが確認された。



【結論】

脊髄虚血再灌流モデルに対し,術後すぐのMSCsの動脈内投与が外科手術後の合併症である対麻痺の予防につながる可能性を示した。①MSCs投与効果は急性期より出現した。②術後1日後に脊髄組織に生着している細胞数はわずかであった。以上の結果より,運動麻痺の予防・改善には,MSCsが放出する栄養因子が発揮する神経保護効果が大きく関与した可能性が考えられた。

外科手術後の合併症である脊髄虚血による対麻痺に悩まされる患者は多く,理学療法の対象疾患ともなっている。MSCs投与により,麻痺を未然に防ぐもしくはその程度を軽減することができれば,その後の回復,理学療法との併用効果を大きく期待できる。