The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-32] ポスター(基礎)P32

Sat. May 13, 2017 12:50 PM - 1:50 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-32-1] 杖の使用が歩行時の歩幅知覚に与える影響
高齢者における検討

渡邉 観世子1, 谷 浩明2 (1.国際医療福祉大学小田原保健医療学部理学療法学科, 2.国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科)

Keywords:歩幅, 杖歩行, 高齢者

【はじめに,目的】

歩行時の杖の使用は姿勢や歩行動作を安定させる(Ashton-Miller, 1996;Kuan, 1990)一方で,高齢者では杖操作に困難さを感じているという報告(Mann, 1995)がある。我々は,杖の有無が歩行中の歩幅調整の正確性に与える影響を若年健常成人で検討し,杖を使用すると一定の歩幅で歩くことが難しく,小さな歩幅を調整する際に正確性が低くなることを報告した(第51回日本理学療法学術大会)。本研究では杖を使用する機会の多い高齢者において杖の使用に伴う知覚変化を把握し,杖の操作指導に必要な知見を得ることを目的に,高齢者を対象に杖の使用による歩幅調整の正確性への影響を検討した。

【方法】

対象は健常高齢者20名(男性15名,女性5名,平均年齢73.3±1.7歳)であり,中枢神経的および整形外科的疾患がなく,杖の使用経験がない者とした。課題は,杖使用の要因(あり・なし)と歩幅要因(通常・小)の組み合わせからなる4条件の歩行課題を実施した。歩幅の目標値は杖歩行を想定し,「ゆっくりした速度」での歩幅を計測し,その歩幅を「通常」の歩幅とし,それより20%短い歩幅を「小さい」歩幅と設定した。杖あり条件での歩行課題では3動作揃え型の歩行形態とした。実験試行の前には視覚的に歩幅を確認する練習試行(5歩)をおこない,実験試行では前方の注視点を見ながら歩行した。なお歩行課題の実施順序は対象者間でカウンターバランスを取った。

歩行課題では母趾背側にマーカーを貼付し側方からビデオカメラにて10歩分の歩行を撮影した。撮影した画像はダートフィッシュTeam Pro 5.5(ダートフィッシュ社)を用いてマーカー位置を指標として歩幅を計測した。歩幅調節の正確性はそれぞれの目標値からの差分について10歩の平均値のz-scoreを求めた。また10歩の歩幅の変動係数を求め,歩幅の一貫性の指標とした。誤差と変動係数はそれぞれ2要因分散分析にて検定した。さらに参考として,年齢による誤差の大きさを比較するために先の研究で得た若年健常成人の値を用いて3要因分散分析にて検定した。

【結果】

歩幅調節の正確性については,杖使用要因の有意な主効果を認め(F=5.0,p<0.05),杖なし条件では杖あり条件よりも誤差が大きかった。また変動係数では,杖使用要因の有意な主効果を認め(F=19.1,p<0.05),杖あり条件では杖なし条件よりも値が高く,一貫性が低かった。若年健常成人との誤差の比較では,高齢者の方が有意に大きかった(F=5.2,p<0.05)。

【結論】

杖の使用により歩幅調整の正確性は高いが,歩幅の一貫性は低いという結果から,杖を使用した条件では誤差の平均値としては小さいが,試行ごとのばらつきが大きく,一貫した歩幅を保つことが困難であると考えられた。高齢者は若年者よりも歩幅調整が困難なため,臨床現場で高齢者に対して杖の操作方法を指導する際には,歩幅を一定にする意識を高めるような練習が必要であると言える。