第52回日本理学療法学術大会

講演情報

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-32] ポスター(基礎)P32

2017年5月13日(土) 12:50 〜 13:50 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-32-3] 認知症患者おける視覚的フィードバックの効果
グラフを用いた介入効果の有無

富田 駿1, 加藤 宗規2 (1.医療法人社団千葉秀心会東船橋病院, 2.了徳寺大学)

キーワード:認知症, フィードバック, 歩行

【はじめに,目的】認知症患者への称賛・注目の有効性は,シングルケースデザインにおける検討で報告されている。また注目・称賛といった先行・後続刺激の整備においてグラフ掲示を用いた視覚的刺激が強化子として働くことも多数の報告から示されている。そこで今回,20症例の認知症患者における歩行距離のフィードバックに際して,グラフを用いることで歩行距離に変化がみられるか検討した。【方法】対象は当院に入院しているリハビリテーション実施中の患者で,Minimental State Examination(以下MMSE)にて23点以下の認知症を有する患者20名(男性10名,女性10名,平均年齢81.7歳)とした。疾患名は,肺炎:6名,脳梗塞:5名,慢性硬膜下血腫:2名,脳出血:1名,急性硬膜外血腫:1名,頭部外傷:1名,胃炎:1名,尿路感染:2名,症候性てんかん:1名であり,認知症のタイプは,アルツハイマー型:13名,脳血管性:7名であった。対象者が行う歩行練習における1日の合計歩行距離を記録し,歩行前に前日の歩行距離を提示,歩行後にその日の歩行距離と前日との比較についてフィードバックを行うベースライン条件(5日間)とそれらについてグラフを用いて口頭で説明する介入条件(5日間)の比較を行い,認知症患者に対するグラフ提示の有効性について検討した。両期間とも前日よりも歩行距離が増加した場合には担当理学療法士による称賛を行った。なお,ベースライン条件と介入条件はランダムに行った。どちらの期間においても歩行練習時の声かけは「できるだけ歩いてみましょう」とし,本人が歩行距離を決定できる環境を整えた。なお,歩行練習は一度できるだけ歩いた後,「もう少し歩いてみますか?」と本人に再度歩くか確認し,可能であれば休憩後に再度歩行練習を実施した。この際,歩行環境は症例に合わせ,補助具として平行棒,杖や歩行器を用いることもあった。統計はベースライン期5回と介入期5回の差についてWilcoxonの符号順位検定を用いて個別に検討した。有意水準は5%未満とした。【結果】歩行距離の平均値はベースライン期75.4m,介入期123.3mであり,有意に介入期で増加した。ベースライン期5回と介入期5回の比較では20名中15名で有意に介入期が増加した。【結論】20名中15名がグラフ提示により歩行距離が有意に増加し,全体の平均値の比較においてもグラフ提示により歩行距離が有意に増加したことから,認知症を有する患者の歩行練習においてグラフを用いて歩行前に前日の歩行距離を提示し,歩行後に前日と比較した歩行距離をフィードバックすることは,歩行距離増加に有効に機能したと考えられた。しかし,グラフ提示によっても歩行距離が増加していない症例も認められ,認知症が原因による失語症や視覚性失認を呈している症例には代替する強化刺激を検討していく必要がある。