[P-KS-35-3] 二重課題条件の違いが歩行動作に与える影響
―記憶課題・stroop課題・連続引き算課題による検討―
キーワード:二重課題, 歩行, 高齢者
【はじめに,目的】
二重課題(dual task:DT)条件下における歩行テストが転倒予測に有用であることはよく知られている。昨年の研究では,通常の歩行(single task:ST)と比較した1桁の足し算を解答しながら歩くDT歩行において,高齢者ではストライド長は減少したが,歩行速度やtoe clearanceの最小値(minimum toe clearance:MTC)は条件間に有意な差は認められなかった。この結果は課題内容の難易度が原因と考え,今回の研究では,記憶課題,stroop課題,連続引き算課題の3条件のDT課題を実施し,DT条件の違いが歩行動作に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
地域在住の中・高齢者17名(男性9名,女性8名,71.2±6.2歳)を対象として行った。3次元動作解析装置を用い,STを3回施行した。その後,記憶課題,stroop課題,連続引き算課題の3条件のDT歩行を3回施行した。各DT課題の実施順序は,くじ引きにて決定した。測定項目は先行研究を踏襲し,歩行速度,ストライド長,MTCを測定項目とし,各課題条件で平均値を求め,STとDT3条件各々を比較した。統計学的解析として正規性を検討するためにShapiro-Wilk検定を行い,正規性が認められた場合はBonferroni法で補正した対応のあるt検定を,認められなければBonferroni法で補正したWilcoxonの符号付順位和検定を用い,5%水準にて有意判定を行った。
【結果】
STと比べて,記憶課題では歩行速度が有意に低下し(p<0.05),利き足・非利き足のストライド長が有意に減少した(p<0.01)。stroop課題では,利き足・非利き足のストライド長のみが有意に減少した(p<0.05)。連続引き算課題では,歩行速度のみが有意に低下した(p<0.05)。しかし,MTCはDT3条件間に有意な差は認められなかった。
【結論】
本研究ではSTと比べた3条件のDT歩行において,MTCの変化は認められなかったが,歩行速度,もしくはストライド長を減少させた。なかでも,記憶課題が歩行中の運動学的パラメータに最も影響を与えた。健常高齢者では,認知課題の付加が複雑になるにつれ,歩行時の安定性を重視する戦略を用いることが報告されている。そのため,関節の剛体性を高めて歩行する傾向が強くなる。本研究においても,認知課題の付加によって歩行時の安定性を重視したことにより,歩行速度やストライド長の低下に繋がったと考える。また,記憶課題ではディスプレイに提示された10枚の写真を記憶し,その後,それらを答えながら歩行する。それに対し,stroop課題や連続引き算課題は,ディスプレイに映写された課題内容を,ディスプレイを注視しながら歩行するという測定環境の違いがある。過去に実施した1桁の足し算課題では,問題を注視しながら歩行すると,高齢者では胸郭屈曲角度が増加した。さらに,それぞれの認知課題や測定環境の違いによって脳の処理過程,処理速度が異なることから,これらの違いが本結果の相違となったと推察する。
二重課題(dual task:DT)条件下における歩行テストが転倒予測に有用であることはよく知られている。昨年の研究では,通常の歩行(single task:ST)と比較した1桁の足し算を解答しながら歩くDT歩行において,高齢者ではストライド長は減少したが,歩行速度やtoe clearanceの最小値(minimum toe clearance:MTC)は条件間に有意な差は認められなかった。この結果は課題内容の難易度が原因と考え,今回の研究では,記憶課題,stroop課題,連続引き算課題の3条件のDT課題を実施し,DT条件の違いが歩行動作に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
地域在住の中・高齢者17名(男性9名,女性8名,71.2±6.2歳)を対象として行った。3次元動作解析装置を用い,STを3回施行した。その後,記憶課題,stroop課題,連続引き算課題の3条件のDT歩行を3回施行した。各DT課題の実施順序は,くじ引きにて決定した。測定項目は先行研究を踏襲し,歩行速度,ストライド長,MTCを測定項目とし,各課題条件で平均値を求め,STとDT3条件各々を比較した。統計学的解析として正規性を検討するためにShapiro-Wilk検定を行い,正規性が認められた場合はBonferroni法で補正した対応のあるt検定を,認められなければBonferroni法で補正したWilcoxonの符号付順位和検定を用い,5%水準にて有意判定を行った。
【結果】
STと比べて,記憶課題では歩行速度が有意に低下し(p<0.05),利き足・非利き足のストライド長が有意に減少した(p<0.01)。stroop課題では,利き足・非利き足のストライド長のみが有意に減少した(p<0.05)。連続引き算課題では,歩行速度のみが有意に低下した(p<0.05)。しかし,MTCはDT3条件間に有意な差は認められなかった。
【結論】
本研究ではSTと比べた3条件のDT歩行において,MTCの変化は認められなかったが,歩行速度,もしくはストライド長を減少させた。なかでも,記憶課題が歩行中の運動学的パラメータに最も影響を与えた。健常高齢者では,認知課題の付加が複雑になるにつれ,歩行時の安定性を重視する戦略を用いることが報告されている。そのため,関節の剛体性を高めて歩行する傾向が強くなる。本研究においても,認知課題の付加によって歩行時の安定性を重視したことにより,歩行速度やストライド長の低下に繋がったと考える。また,記憶課題ではディスプレイに提示された10枚の写真を記憶し,その後,それらを答えながら歩行する。それに対し,stroop課題や連続引き算課題は,ディスプレイに映写された課題内容を,ディスプレイを注視しながら歩行するという測定環境の違いがある。過去に実施した1桁の足し算課題では,問題を注視しながら歩行すると,高齢者では胸郭屈曲角度が増加した。さらに,それぞれの認知課題や測定環境の違いによって脳の処理過程,処理速度が異なることから,これらの違いが本結果の相違となったと推察する。