第52回日本理学療法学術大会

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-35] ポスター(基礎)P35

2017年5月13日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-35-5] 歩行時模擬スリップに対する姿勢制御反応
リュックサック保持の有無による比較

若狭 春門, 大場 鴻大, 塙 大樹, 星 文彦 (東埼玉総合病院)

キーワード:模擬スリップ, 荷物運搬, 外乱刺激

【はじめに,目的】

高齢者の転倒の過半数は歩行時に生じるとされており,つまずきやスリップのような急激な外乱刺激によって発生することが多い。併せて,在宅高齢者を対象にした調査においては,転倒群の多くが荷物を運搬していたと報告されている。先行研究で歩行時模擬スリップ刺激に対する姿勢制御反応が分析されているが,荷物運搬の有無を問うた研究はほとんど存在しない。本研究の目的は,健常成人の歩行時模擬スリップ刺激に対する姿勢制御反応が荷物運搬の有無とその運搬方法によって変化するかを明らかにし,転倒予防の運動療法に対する基礎的な知見を提供することである。

【方法】

対象は健常男性9名(平均年齢21.4歳)とした。実験装置には,両側分離型床反力計内蔵トレッドミル,表面筋電図計を使用した。歩行条件には,リュックサックなし,後ろに背負う,前に抱えるの3条件を用意した。各歩行条件において,被験者はトレッドミル上を快適速度で歩行,数歩行周期目の右踵接地時に外乱刺激(接地側ベルトの50%減速刺激)を与えられた。これに対する姿勢反応として,接地側床反力前方成分量およびピーク値までの時間,接地側床反力垂直成分量,接地側腓腹筋の反応時間を以下の解析に含めた。その後,リュックサックなしでの定常歩行時と外乱刺激時の各計測値を対応のないT検定により比較した。更に,外乱刺激に対するリュックサックの有無・運搬条件間の各計測値の差異について,多重比較を行うことで検証した。

【結果】

リュックサックなし条件において,定常歩行時に比べて外乱刺激時は床反力前方成分量,ピーク値までの時間,床反力垂直成分量が有意に大きかった(それぞれ,p<0.001,p<0.001,p=0.02)。外乱刺激に対するリュックサックの有無や位置による各計測値の差異について,リュックサックの運搬により床反力垂直分力が増大した(p=0.016)。

【結論】

外乱刺激時は,定常歩行時よりも体幹が前方へ動揺するため,床反力の前方成分量を増大させるとともに,ピーク時間も遷延させたと考えられる。また,床反力垂直成分量の増大を通して摩擦力を増大させ,スリップを防いだことも考えられる。これらの反応は,リュックサックの有無や運搬方法を問わず,基本的な姿勢反応である。対して,リュックサックを負荷しても床反力垂直成分量が増大するのみであり,健常成人ではリュックサックの有無や運搬方法で姿勢動揺を増大させないよう適応可能であったことが考えられる。更に,接地側腓腹筋の活動タイミングの違いが見られなかったことから,荷物運搬の有無や運搬方法に対する適応機構は,下肢のみならず全身的な姿勢反応として表現されることが示唆された。本研究結果により,日常生活に則した転倒予防の運動療法を考える際の基礎的知見を提供できたと考える。今後は高齢者や障害者に対しても検証し,より実践的な転倒予防の運動療法の検討していきたい。