[P-KS-36-3] 立ち上がり動作における膝関節キネティクスに及ぼす体幹ダイナミクスの影響
Keywords:立ち上がり, 相互作用トルク, ダイナミクス
【はじめに,目的】
日常生活で頻回に繰り返される立ち上がり(STS)動作は体幹の前傾の不足に伴って筋の負荷が増大し非効率的な動作となっていることが報告されており,身体質量に占める割合の大きい体幹のふるまいが重要な役割を担っていることが示唆されている。多関節運動においては筋トルクや重力トルク以外に相互作用トルクと呼ばれるセグメント間の相互作用の影響が加わる。相互作用トルクは速度依存トルクと慣性力によって構成されるため質量の大きい体幹セグメントのふるまいは動的効率性に強く影響すると考えられるため,本研究ではとくに隣接したセグメントの影響を受けやすい中間関節である膝関節に対して立ち上がり動作時の体幹のふるまいがどのように貢献するかを明らかにすることとした。
【方法】
健常若年者3名(年齢23±1.7歳,身長173.0±6.0cm,体重64.0±7.2kg)を対象とし,課題動作は椅子座位からの立ち上がりとした。体幹条件は普通(N),前傾(TM),垂直(TV)を各3試行した。計測には三次元動作解析装置(VICON社製,100 Hz)で39個の赤外線反射マーカー(Plug in Gait Full Body Aiモデル)の三次元座標を記録し関節角度を,床反力計(Kistler社製,1000Hz)から垂直・前後方向の床反力を算出した。股関節角加速度から動作の開始・終了地点を規定し時間正規化を行った。トルク解析はHAT,大腿,下腿の3セグメントリンクモデルを用いて,MATLABを使用し,ラグランジュの運動方程式を用いて総トルク(NET),筋トルク(MUS),重力トルク(GRA),INTを算出した。解析項目は各条件における運動時間,下肢各関節(股関節,膝関節,足関節)の最大屈曲(背屈)角度,各トルク成分(NET,MUS,GRA,INT)最大・最小値,NETに対するINT寄与率とし,条件間で比較した。
【結果】
動作時間(TV<N<TM),体幹前傾角度(N:106±8.3度 TM:133±7.2度 TV 90±10.4度)は条件間で有意差を認めたが条件内では有意差を認めなかった(有意水準P<0.01)。条件間の各トルク成分は類似した波形を示した。3例中2例はTM・N・TVの順に膝関節INTの寄与率が高い傾向を認め,1例に限ってはTM・TV・Nの順にINTの寄与率が高く,INTの寄与率は全体として低い傾向にあった。2例と比較した運動学的な特徴として下肢関節の角速度・角加速度のピーク波形が1峰にならずピーク付近で緩やかな2峰の波となっていた。
【結論】
本研究の結果から,STSにおける膝関節INTは体幹前傾に伴って膝関節NETの生成に貢献する傾向があることが明らかになった。このことは立ち上がり動作時の膝関節における筋活動の増加を防ぎ,動的効率性を高めることに体幹の前傾運動が重要な役割を占めていることを示唆している。今後,メカニカルストレスが背景にある変形性膝関節症に対して立ち上がり動作における相互作用トルクの解析を進めることで変形性膝関節症の力学的特性を明らかにできる可能性がある。
日常生活で頻回に繰り返される立ち上がり(STS)動作は体幹の前傾の不足に伴って筋の負荷が増大し非効率的な動作となっていることが報告されており,身体質量に占める割合の大きい体幹のふるまいが重要な役割を担っていることが示唆されている。多関節運動においては筋トルクや重力トルク以外に相互作用トルクと呼ばれるセグメント間の相互作用の影響が加わる。相互作用トルクは速度依存トルクと慣性力によって構成されるため質量の大きい体幹セグメントのふるまいは動的効率性に強く影響すると考えられるため,本研究ではとくに隣接したセグメントの影響を受けやすい中間関節である膝関節に対して立ち上がり動作時の体幹のふるまいがどのように貢献するかを明らかにすることとした。
【方法】
健常若年者3名(年齢23±1.7歳,身長173.0±6.0cm,体重64.0±7.2kg)を対象とし,課題動作は椅子座位からの立ち上がりとした。体幹条件は普通(N),前傾(TM),垂直(TV)を各3試行した。計測には三次元動作解析装置(VICON社製,100 Hz)で39個の赤外線反射マーカー(Plug in Gait Full Body Aiモデル)の三次元座標を記録し関節角度を,床反力計(Kistler社製,1000Hz)から垂直・前後方向の床反力を算出した。股関節角加速度から動作の開始・終了地点を規定し時間正規化を行った。トルク解析はHAT,大腿,下腿の3セグメントリンクモデルを用いて,MATLABを使用し,ラグランジュの運動方程式を用いて総トルク(NET),筋トルク(MUS),重力トルク(GRA),INTを算出した。解析項目は各条件における運動時間,下肢各関節(股関節,膝関節,足関節)の最大屈曲(背屈)角度,各トルク成分(NET,MUS,GRA,INT)最大・最小値,NETに対するINT寄与率とし,条件間で比較した。
【結果】
動作時間(TV<N<TM),体幹前傾角度(N:106±8.3度 TM:133±7.2度 TV 90±10.4度)は条件間で有意差を認めたが条件内では有意差を認めなかった(有意水準P<0.01)。条件間の各トルク成分は類似した波形を示した。3例中2例はTM・N・TVの順に膝関節INTの寄与率が高い傾向を認め,1例に限ってはTM・TV・Nの順にINTの寄与率が高く,INTの寄与率は全体として低い傾向にあった。2例と比較した運動学的な特徴として下肢関節の角速度・角加速度のピーク波形が1峰にならずピーク付近で緩やかな2峰の波となっていた。
【結論】
本研究の結果から,STSにおける膝関節INTは体幹前傾に伴って膝関節NETの生成に貢献する傾向があることが明らかになった。このことは立ち上がり動作時の膝関節における筋活動の増加を防ぎ,動的効率性を高めることに体幹の前傾運動が重要な役割を占めていることを示唆している。今後,メカニカルストレスが背景にある変形性膝関節症に対して立ち上がり動作における相互作用トルクの解析を進めることで変形性膝関節症の力学的特性を明らかにできる可能性がある。