[P-KS-44-2] 適応的運動学習における安静時脳活動は時間・空間的制御に関連する
Keywords:安静時脳活動, 適応的運動学習, 時間的・空間的制御
【はじめに,目的】
近年,運動学習効果に対して,課題前の安静時脳活動が関与することが明らかにされつつあるが,環境に適応して行く適応的運動学習もその例外でない(Wu, et al., 2014)。これに対して,課題前だけでなく課題中の休息時においても,学習と関連した脳活動が生じている可能性もある。また,適応的運動学習の構成要素には身体の時間的,空間的な制御が含まれ,これら制御の違いに関連する脳活動は,異なる可能性が考えられる。そこで本研究では課題前だけでなく,課題休息時においても学習と関連した脳活動が認められるかを明らかにすること,適応的運動学習における休息時の時間的・空間的制御に関連する脳活動を明確化することを目的とした。
【方法】
対象は右利きの健常成人25名(平均年齢24.0±3.5歳)とし,学習群12名,コントロール群13名にランダム割付けした。課題は非利き手でのトラッキング課題とし,学習群は操作する指標が画面上に表示され,コントロール群では指標が表示されない設定とした。課題3試行を1セットとし,計10セット実施した。課題のセット前後には90秒間の閉眼安静を計11回設けた。行動指標として,空間的誤差は指標とターゲットの距離の絶対値,時間的誤差はターゲットに対する指標のY軸上の差を平均した値とした。脳波は国際10-20法に基づく64ch(sampling rate:512Hz)で記録した。安静状態90秒間から前後15秒間を除外した60秒間を解析対象とし,power spectrum解析によってβ波(12.5-30.0Hz)のパワー値を求めた。対象領域は運動学習に関係する左右の運動関連領域と頭頂皮質領域とした。行動指標は一元配置分散分析(多重比較検定法:Bonferroni法),Region of Interest(ROI)におけるパワー値の群間比較には対応のないt検定を用いた。学習効果と群間比較によって有意差が認められた領域との関係を,Pearson積率相関係数を用い統計処理した。有意水準は全て5%とした。
【結果】
学習群の空間的誤差にのみ有意な学習効果を認めた(1セットv.s2~10セット:p<.01)。パワー値の群間比較では,コントロール群に比べて学習群の全てのROIにおいて,全セットで低値を認めた(p<.06~.001)。空間的誤差と左運動関連領域のパワー値との間に,学習効果が高いものほどパワー値が低いという有意な負の相関(課題前r=-.58,p<.05,3セット後r=-.60,p<.04)を認めた。時間的誤差と左頭頂皮質領域のパワー値との間でも,同様に有意な負の相関(課題前~3セットまでr=-.58~-.77,p<.04~.003)を認めた。
【結論】
本研究は,適応的運動学習における時間的・空間的制御に関連した課題前および課題間の安静時脳活動を明らかにした。その脳活動は,課題に対する運動シミュレーションを反映したものであることが示唆された。以上の結果から,運動学習過程において,課題中のみならず,課題前・課題中の安静状態を考慮に入れた理学療法介入を実施する重要性が示唆された。
近年,運動学習効果に対して,課題前の安静時脳活動が関与することが明らかにされつつあるが,環境に適応して行く適応的運動学習もその例外でない(Wu, et al., 2014)。これに対して,課題前だけでなく課題中の休息時においても,学習と関連した脳活動が生じている可能性もある。また,適応的運動学習の構成要素には身体の時間的,空間的な制御が含まれ,これら制御の違いに関連する脳活動は,異なる可能性が考えられる。そこで本研究では課題前だけでなく,課題休息時においても学習と関連した脳活動が認められるかを明らかにすること,適応的運動学習における休息時の時間的・空間的制御に関連する脳活動を明確化することを目的とした。
【方法】
対象は右利きの健常成人25名(平均年齢24.0±3.5歳)とし,学習群12名,コントロール群13名にランダム割付けした。課題は非利き手でのトラッキング課題とし,学習群は操作する指標が画面上に表示され,コントロール群では指標が表示されない設定とした。課題3試行を1セットとし,計10セット実施した。課題のセット前後には90秒間の閉眼安静を計11回設けた。行動指標として,空間的誤差は指標とターゲットの距離の絶対値,時間的誤差はターゲットに対する指標のY軸上の差を平均した値とした。脳波は国際10-20法に基づく64ch(sampling rate:512Hz)で記録した。安静状態90秒間から前後15秒間を除外した60秒間を解析対象とし,power spectrum解析によってβ波(12.5-30.0Hz)のパワー値を求めた。対象領域は運動学習に関係する左右の運動関連領域と頭頂皮質領域とした。行動指標は一元配置分散分析(多重比較検定法:Bonferroni法),Region of Interest(ROI)におけるパワー値の群間比較には対応のないt検定を用いた。学習効果と群間比較によって有意差が認められた領域との関係を,Pearson積率相関係数を用い統計処理した。有意水準は全て5%とした。
【結果】
学習群の空間的誤差にのみ有意な学習効果を認めた(1セットv.s2~10セット:p<.01)。パワー値の群間比較では,コントロール群に比べて学習群の全てのROIにおいて,全セットで低値を認めた(p<.06~.001)。空間的誤差と左運動関連領域のパワー値との間に,学習効果が高いものほどパワー値が低いという有意な負の相関(課題前r=-.58,p<.05,3セット後r=-.60,p<.04)を認めた。時間的誤差と左頭頂皮質領域のパワー値との間でも,同様に有意な負の相関(課題前~3セットまでr=-.58~-.77,p<.04~.003)を認めた。
【結論】
本研究は,適応的運動学習における時間的・空間的制御に関連した課題前および課題間の安静時脳活動を明らかにした。その脳活動は,課題に対する運動シミュレーションを反映したものであることが示唆された。以上の結果から,運動学習過程において,課題中のみならず,課題前・課題中の安静状態を考慮に入れた理学療法介入を実施する重要性が示唆された。