[P-KS-53-4] 片側大脳皮質損傷後の運動機能回復に関与する神経回路網の再編成
神経回路網の再編成を調節する遺伝子の探索
Keywords:中枢神経損傷, 神経回路網, 遺伝子
【はじめに,目的】
中枢神経損傷後の機能回復には,神経回路網の再編成が重要な役割を担っていることが明らかになってきた。中枢神経損傷後のリハビリテーションは,機能回復に有用であり,その神経科学的基盤として神経回路網の再編成の促進に寄与していると考えられている。また,神経回路網の再編成は,成体脳に比べ新生児脳で高い能力を有していることが示唆されている。そこで我々は,新生児期の脳損傷後の神経回路網の再編成において特徴的な機序を明らかにし,それを応用することで成体脳損傷後の機能回復をさらに促進することができるのではないか,と仮説立てて,新生児期および成体脳損傷モデルを用いて研究を行っている。これまでに,非損傷側の前頭部に位置する領域で神経回路網の有意な違いを捉えた。そこで,本研究は,同領域で得られた変化に関連する因子を明らかにするため,遺伝子を網羅的に解析し関連因子の抽出を行った。
【方法】
本実験は,オスC57BL6マウスを用いた。新生児群(NBI:n=5)は生後7日,成体群(ABI:n=5)は生後10週齢にて,運動感覚領域を含む左大脳皮質を吸引にて広範囲に損傷させた。コントロール群は,生後14日,35日,10週(それぞれn=5)とした。損傷後1週,4週において,ソムノペンチルの腹腔内投与による深麻酔導入後,ブレグマより吻側の右大脳皮質の組織を採取した。採取した組織は,-80度で急速凍結後に粉末状にしてmRNAを抽出し,そこからcDNAを合成した。このcDNAは,赤色と緑色の蛍光でそれぞれラベルし,遺伝子の発現量はAgilent社製のキット(8×60k:G4852A)を用いた。測定した発現量がコントロール群に比べ1.5倍以上の増加もしくは減少の遺伝子を選定した。選定した遺伝子は,Ingenuity Pathway Analysis(IPA)ソフトウェア(トミーデジタルバイオロジー社製)を用いた。
【結果】
NBI群で,1,4週において発現が増加した遺伝子数は193,61であり,ABI群は,1703,98であった。一方,発現が減少した遺伝子数は,NBI群が663,1178であり,ABI群は2263,505であった。IPAの結果,術後1週では両群とも細胞維持や細胞発達のpathwayに関与する遺伝子が上位を占めていたが,NBI群ではさらに細胞増殖および神経システムの発達と機能のpathwayに関与する遺伝子が存在した。術後4週では,NBI群は術後1週と類似していた。一方,ABI群は,細胞増殖のpathwayに関わる遺伝子が上位を占めたが神経システムの発達と機能のpathwayに関与する遺伝子は上位に存在しなかった。
【結論】
NBI群は,術後早期から神経システムに関する因子の導入が認められたが,ABI群では,それらが著明ではないことが明らかになった。このことが,新生児の脳損傷からの高い可塑的能力であると推察された。現在,これらの因子の中から,新生児に特徴的なものに着目して遺伝子の特定を行っている。さらに,両者に存在するが,その作用能力が新生児で高い因子にも着目して同定していく。
中枢神経損傷後の機能回復には,神経回路網の再編成が重要な役割を担っていることが明らかになってきた。中枢神経損傷後のリハビリテーションは,機能回復に有用であり,その神経科学的基盤として神経回路網の再編成の促進に寄与していると考えられている。また,神経回路網の再編成は,成体脳に比べ新生児脳で高い能力を有していることが示唆されている。そこで我々は,新生児期の脳損傷後の神経回路網の再編成において特徴的な機序を明らかにし,それを応用することで成体脳損傷後の機能回復をさらに促進することができるのではないか,と仮説立てて,新生児期および成体脳損傷モデルを用いて研究を行っている。これまでに,非損傷側の前頭部に位置する領域で神経回路網の有意な違いを捉えた。そこで,本研究は,同領域で得られた変化に関連する因子を明らかにするため,遺伝子を網羅的に解析し関連因子の抽出を行った。
【方法】
本実験は,オスC57BL6マウスを用いた。新生児群(NBI:n=5)は生後7日,成体群(ABI:n=5)は生後10週齢にて,運動感覚領域を含む左大脳皮質を吸引にて広範囲に損傷させた。コントロール群は,生後14日,35日,10週(それぞれn=5)とした。損傷後1週,4週において,ソムノペンチルの腹腔内投与による深麻酔導入後,ブレグマより吻側の右大脳皮質の組織を採取した。採取した組織は,-80度で急速凍結後に粉末状にしてmRNAを抽出し,そこからcDNAを合成した。このcDNAは,赤色と緑色の蛍光でそれぞれラベルし,遺伝子の発現量はAgilent社製のキット(8×60k:G4852A)を用いた。測定した発現量がコントロール群に比べ1.5倍以上の増加もしくは減少の遺伝子を選定した。選定した遺伝子は,Ingenuity Pathway Analysis(IPA)ソフトウェア(トミーデジタルバイオロジー社製)を用いた。
【結果】
NBI群で,1,4週において発現が増加した遺伝子数は193,61であり,ABI群は,1703,98であった。一方,発現が減少した遺伝子数は,NBI群が663,1178であり,ABI群は2263,505であった。IPAの結果,術後1週では両群とも細胞維持や細胞発達のpathwayに関与する遺伝子が上位を占めていたが,NBI群ではさらに細胞増殖および神経システムの発達と機能のpathwayに関与する遺伝子が存在した。術後4週では,NBI群は術後1週と類似していた。一方,ABI群は,細胞増殖のpathwayに関わる遺伝子が上位を占めたが神経システムの発達と機能のpathwayに関与する遺伝子は上位に存在しなかった。
【結論】
NBI群は,術後早期から神経システムに関する因子の導入が認められたが,ABI群では,それらが著明ではないことが明らかになった。このことが,新生児の脳損傷からの高い可塑的能力であると推察された。現在,これらの因子の中から,新生児に特徴的なものに着目して遺伝子の特定を行っている。さらに,両者に存在するが,その作用能力が新生児で高い因子にも着目して同定していく。