[P-MT-05-3] 頸椎症性脊髄症患者に対し加速度計を用いた歩行解析が有効であった一例
Keywords:頸椎症性脊髄症, 加速度計, 歩行解析
【はじめに,目的】
頸椎症性脊髄症(CSM)は,頸部脊柱管の狭小化により頸髄を圧迫することを特徴とする頸椎の変性疾患である。歩行障害は主症状の一つであり,痙性により拙劣で非効率的なパターンを呈すことが多い。そのため歩行分析は,理学療法アプローチの方針決定に重要となるが,臨床現場の多くは視診で行われており,経験による差や客観性の欠如など信頼性や再現性の問題がある。そこで今回,患者の身体的負担が少なく,場所も限定せずに長距離の時間変動も解析可能な加速度計を用いたことで改善に繋がった症例を提示し,その有用性を報告する。
【方法】
症例はCSMに対し第5-7頸椎椎弓形成術を施行した,建設業への復職を希望する40歳代男性である。左下肢優位に痙性を認め,歩行や階段昇降の際に左下肢の不安定性と支持性低下を自覚しており,転倒歴もある。また,方向転換時には動揺が著明で,高所や閉所での作業時には下肢の振り出しが困難となる。静止立位時の身体重心は右側に偏位しており,左下腿三頭筋の筋萎縮を認める。歩行時の左側への重心移動は体幹での代償が強く,左側mid-stanceからpre-swingにかけての不安定性も認められる。既往歴に心筋梗塞があり,心機能の低下を認めることから,安定且つ効率的な歩行の獲得が必要である。そこで通常の理学療法評価に加え,術前と術後2日目より毎週,重心動揺計による静的バランス評価と加速度計による歩行解析を取り入れ,症例に解析結果を提示しながら理学療法を進めた。歩行解析ではMicroStone社製3軸加速度計を第3腰椎棘突起と踵骨隆起に装着し,10歩行周期の体幹加速度データをサンプリング周波数200Hzで測定した。測定したデータの左右成分と鉛直成分より前額面上のLissajous Index(LI),踵骨隆起の加速度データより歩行周期の変動性を示すStride-to-stride Time Variability(STV)をそれぞれ算出した。
【結果】
以下に術後2日および術後3週の評価結果を示す。静止立位における左右方向動揺平均中心変位は0.25cmから-0.5cmと左側へ重心が変位した。Timed Up & Go test(TUG)は7.5secから6.2sec,LIは26.9%から1.82%,STVは3.44%から1.50%と,それぞれ大幅な改善を認め,術後28日に自宅退院となった。
【結論】
CSM患者では,単脚支持時間とストライド長の短縮,膝関節屈曲角度と足関節底屈角度の減少といった運動学的特徴に加え,pre-swingでの足関節powerの減少と股関節powerが増加するといった運動力学的な特徴を示す(A Malone, et al., 2012)。また,外科的減圧術後1年の時点で,足関節底屈モーメントの増加やpre-swingでの足関節底屈powerの増加など運動力学的な改善は認めるが,運動学的な改善には至らなかったと報告されている(A Malone, et al., 2015)。本症例では加速度計による歩行解析を導入したことで,歩行の状態を詳細に提示でき,運動力学的な改善を効率良く運動学的な改善に繋げることが可能であったと思われる。
頸椎症性脊髄症(CSM)は,頸部脊柱管の狭小化により頸髄を圧迫することを特徴とする頸椎の変性疾患である。歩行障害は主症状の一つであり,痙性により拙劣で非効率的なパターンを呈すことが多い。そのため歩行分析は,理学療法アプローチの方針決定に重要となるが,臨床現場の多くは視診で行われており,経験による差や客観性の欠如など信頼性や再現性の問題がある。そこで今回,患者の身体的負担が少なく,場所も限定せずに長距離の時間変動も解析可能な加速度計を用いたことで改善に繋がった症例を提示し,その有用性を報告する。
【方法】
症例はCSMに対し第5-7頸椎椎弓形成術を施行した,建設業への復職を希望する40歳代男性である。左下肢優位に痙性を認め,歩行や階段昇降の際に左下肢の不安定性と支持性低下を自覚しており,転倒歴もある。また,方向転換時には動揺が著明で,高所や閉所での作業時には下肢の振り出しが困難となる。静止立位時の身体重心は右側に偏位しており,左下腿三頭筋の筋萎縮を認める。歩行時の左側への重心移動は体幹での代償が強く,左側mid-stanceからpre-swingにかけての不安定性も認められる。既往歴に心筋梗塞があり,心機能の低下を認めることから,安定且つ効率的な歩行の獲得が必要である。そこで通常の理学療法評価に加え,術前と術後2日目より毎週,重心動揺計による静的バランス評価と加速度計による歩行解析を取り入れ,症例に解析結果を提示しながら理学療法を進めた。歩行解析ではMicroStone社製3軸加速度計を第3腰椎棘突起と踵骨隆起に装着し,10歩行周期の体幹加速度データをサンプリング周波数200Hzで測定した。測定したデータの左右成分と鉛直成分より前額面上のLissajous Index(LI),踵骨隆起の加速度データより歩行周期の変動性を示すStride-to-stride Time Variability(STV)をそれぞれ算出した。
【結果】
以下に術後2日および術後3週の評価結果を示す。静止立位における左右方向動揺平均中心変位は0.25cmから-0.5cmと左側へ重心が変位した。Timed Up & Go test(TUG)は7.5secから6.2sec,LIは26.9%から1.82%,STVは3.44%から1.50%と,それぞれ大幅な改善を認め,術後28日に自宅退院となった。
【結論】
CSM患者では,単脚支持時間とストライド長の短縮,膝関節屈曲角度と足関節底屈角度の減少といった運動学的特徴に加え,pre-swingでの足関節powerの減少と股関節powerが増加するといった運動力学的な特徴を示す(A Malone, et al., 2012)。また,外科的減圧術後1年の時点で,足関節底屈モーメントの増加やpre-swingでの足関節底屈powerの増加など運動力学的な改善は認めるが,運動学的な改善には至らなかったと報告されている(A Malone, et al., 2015)。本症例では加速度計による歩行解析を導入したことで,歩行の状態を詳細に提示でき,運動力学的な改善を効率良く運動学的な改善に繋げることが可能であったと思われる。