[P-MT-15-2] 上腕骨近位端骨折術後における斜面台を用いた運動療法の試み
Keywords:上腕骨近位端骨折術後, 運動療法, 斜面台
【はじめに】
近年,上腕骨近位端骨折に対する整復固定術後の改善例は報告されているが,理学療法について記載されている報告は少なく,肩関節の解剖学や運動学に基づく運動療法の報告も見当たらない。そこで今回,上腕骨近位端骨折に対する整復固定術後の関節可動域制限および筋力低下に対し,斜面台を用いた運動療法により,肩関節の機能が回復し,復職可能となった症例を経験したため報告する。
【症例紹介と経過】
68歳,女性(職業:会社員)。平成28年5月,ゴルフ場でカートを動かしていた際に転倒し左肩を打撲。A病院に受診し左上腕骨近位端骨折(Neer分類:大結節2-part)と診断され当院入院。発症後5日に整復固定術施行し,翌日より理学療法開始となった。
術後は関節可動域運動を他動運動から開始し,仮骨形成が認められた発症後25日に自動運動を開始し,漸増的に行った。発症後40日で何とか日常生活が可能となったが,術前転位が大きい骨折だったため,術後の内反変形による偽関節や,肩峰と大結節間でのインピンジメントを回避できず,関節可動域制限や疼痛が顕著に残存した。術後3ヶ月を抜釘予定とし,週3回の外来リハに移行し,関節拘縮予防と筋力維持を目的に行った。発症後116日に抜釘術を施行後,斜面台を用いた運動療法を開始した。
【退院時の理学療法評価】
ROM:屈曲85°,外転55°,MMT:屈曲・伸展3,外転2,NRS:8/10,JOAスコア:49点。
【斜面台による治療法】
斜面台に背臥位とし,斜面台の角度を徐々に上げていき,上肢を可能な限り挙上させる。健側と同程度に挙上位保持が可能な角度を設定し,挙上した上肢を肩関節外転・外旋位とし,前腕回外・肘関節を軽度屈曲にて目的とする筋が遠心性収縮するように10秒程度かけて下制させる。これを15回程度健側と同程度の肩甲上腕リズムで行えるようになった時点で,斜面台の角度を増していく。80°に達したら同様の練習を立位で行う。この方法で,本症例は斜面台40°から開始でき,約2週間で80°での上肢の挙上が可能となり,その後は重錘バンドで漸増的に行った。
【治療終了後の理学療法評価】
ROM:屈曲130°,外転110°,MMT:屈曲・外転4(その他5),NRS:0/10,JOAスコア:87点。発症後147日で終了し,復職可能となった。
【考察】
今回,上腕骨近位端骨折に対する整復固定術後に顕著な関節可動域制限および筋力低下を伴い運動療法が難渋したが,抜釘による疼痛軽減や,斜面台による段階的な運動療法により改善が図れた。肩関節の機能回復の利用としては,斜面台を使用して肩甲骨の上方回旋筋や腱板筋群,三角筋に対しての挙上位での保持練習と遠心性収縮を中心に段階的に筋力練習を行ったことによるものと考える。
【理学療法学研究としての意義】
斜面台を用いた運動療法は,特別な技術や器具を必要とせず,どの施設においても利用可能なため,上腕骨近位端骨折に限らず肩関節障害に有効な手段であると考える。
近年,上腕骨近位端骨折に対する整復固定術後の改善例は報告されているが,理学療法について記載されている報告は少なく,肩関節の解剖学や運動学に基づく運動療法の報告も見当たらない。そこで今回,上腕骨近位端骨折に対する整復固定術後の関節可動域制限および筋力低下に対し,斜面台を用いた運動療法により,肩関節の機能が回復し,復職可能となった症例を経験したため報告する。
【症例紹介と経過】
68歳,女性(職業:会社員)。平成28年5月,ゴルフ場でカートを動かしていた際に転倒し左肩を打撲。A病院に受診し左上腕骨近位端骨折(Neer分類:大結節2-part)と診断され当院入院。発症後5日に整復固定術施行し,翌日より理学療法開始となった。
術後は関節可動域運動を他動運動から開始し,仮骨形成が認められた発症後25日に自動運動を開始し,漸増的に行った。発症後40日で何とか日常生活が可能となったが,術前転位が大きい骨折だったため,術後の内反変形による偽関節や,肩峰と大結節間でのインピンジメントを回避できず,関節可動域制限や疼痛が顕著に残存した。術後3ヶ月を抜釘予定とし,週3回の外来リハに移行し,関節拘縮予防と筋力維持を目的に行った。発症後116日に抜釘術を施行後,斜面台を用いた運動療法を開始した。
【退院時の理学療法評価】
ROM:屈曲85°,外転55°,MMT:屈曲・伸展3,外転2,NRS:8/10,JOAスコア:49点。
【斜面台による治療法】
斜面台に背臥位とし,斜面台の角度を徐々に上げていき,上肢を可能な限り挙上させる。健側と同程度に挙上位保持が可能な角度を設定し,挙上した上肢を肩関節外転・外旋位とし,前腕回外・肘関節を軽度屈曲にて目的とする筋が遠心性収縮するように10秒程度かけて下制させる。これを15回程度健側と同程度の肩甲上腕リズムで行えるようになった時点で,斜面台の角度を増していく。80°に達したら同様の練習を立位で行う。この方法で,本症例は斜面台40°から開始でき,約2週間で80°での上肢の挙上が可能となり,その後は重錘バンドで漸増的に行った。
【治療終了後の理学療法評価】
ROM:屈曲130°,外転110°,MMT:屈曲・外転4(その他5),NRS:0/10,JOAスコア:87点。発症後147日で終了し,復職可能となった。
【考察】
今回,上腕骨近位端骨折に対する整復固定術後に顕著な関節可動域制限および筋力低下を伴い運動療法が難渋したが,抜釘による疼痛軽減や,斜面台による段階的な運動療法により改善が図れた。肩関節の機能回復の利用としては,斜面台を使用して肩甲骨の上方回旋筋や腱板筋群,三角筋に対しての挙上位での保持練習と遠心性収縮を中心に段階的に筋力練習を行ったことによるものと考える。
【理学療法学研究としての意義】
斜面台を用いた運動療法は,特別な技術や器具を必要とせず,どの施設においても利用可能なため,上腕骨近位端骨折に限らず肩関節障害に有効な手段であると考える。