The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本運動器理学療法学会 » ポスター発表

[P-MT-28] ポスター(運動器)P28

Sat. May 13, 2017 12:50 PM - 1:50 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本運動器理学療法学会

[P-MT-28-4] 膝内側の痛みの特性

小田 翔太1, 泉 仁2, 室伏 祐介1, 近藤 寛1, 橋田 璃央1, 前田 貴之1, 細田 里南1, 永野 靖典1,2, 池内 昌彦1,2 (1.高知大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.高知大学医学部整形外科)

Keywords:膝関節, 痛み, 筋力

【はじめに,目的】

膝痛は国民の愁訴として常に上位にある症状の一つである。膝痛の代表疾患には変形性膝関節症があげられ,臨床的には膝内側に生じる痛みの頻度が高く,その理由として下肢のアライメント異常に代表される生体力学的異常が重視されてきた。しかし,高度の関節変形を呈す例においても膝痛がないことは珍しくなく,別の疼痛発生機序の関与が考えられる。本研究では膝内側が他部位と比べて痛みの感受性が高いとの仮説をたて,一時的に痛みを誘発することのできる高張食塩水を膝周囲組織に注射することでヒト膝痛モデルを作成し,膝内側痛モデルにおける痛みが感覚,筋力に与える特性について膝外側痛モデルを対照に比較検討した。本研究の目的は,ヒト膝痛モデルを用いて膝内側の痛みの特性を明らかにすることである。


【方法】

健常成人男性14名(28±4歳)を対象に高張食塩水(1mEq,0.5ml)を内側側副靭帯の脛骨付着部へ注射することで膝内側痛モデル(MP)を作製し,痛みの局在部位が異なるコントロールとして,腸脛靭帯の脛骨付着部に同じ注射を行う外側痛モデル(LP)も作製した。また,注射による影響を確認するために対側膝の同部位に痛みを誘発しない等張食塩水(生理食塩水)の注射も行った。MPおよびLPの注射は1週間以上の間隔を空け実施した。注射後の痛みの強さはVisual Analogue Scale(VAS)を用いて経時的にモニタリングし,痛みの分布は被験者がマッピングした。膝周囲の圧痛閾値および運動機能として両側の等尺性膝伸展筋力と握力を注射の前後で測定し,その変化率(注射後/注射後×100)を算出してMP,LPで比較した。


【結果】

MPはLPと比べて限局性の強い痛みを生じた(VAS:MP 86.4±10.8mm,LP 69.5±9.3mm,p<0.05)。圧痛閾値は,MPがより広範囲に圧痛閾値の低下を認めた(p<0.05)。両モデルともに両側性の膝伸展筋力および握力に有意な低下を認めた(p<0.05)。さらに注射側の膝伸展筋力においてはMPの方がLPよりも有意に筋力低下を示した(膝伸展筋力変化率:MP 55.5±5.2%,LP 72.7±3.5%,p<0.05)。


【結論】

膝内側は外側と比べて痛みの感受性が高く,同じ侵害刺激であってもより強い限局性の痛みが発生した。また,膝周囲圧痛閾値の低下や遠隔部位にまでおよぶ筋力低下など脊髄より中枢の神経系に与える影響もより強く生じることが明らかになった。患者を対象とした臨床研究では,各患者にみられる病態の不均一性によって,純粋に痛みそのものによる影響を検証することが困難であるが,本モデルではこの問題を克服可能で純粋な痛みのみによる人体への影響を検証することが可能であり痛み研究において意義深いものであると考える。