[P-MT-30-4] 棘上筋の変性が棘上筋腱断裂症例の術前・術後の上肢肩甲骨面挙上時の肩甲骨上方回旋角度に与える影響
Keywords:肩腱板断裂, 上肢挙上動作, 棘上筋変性
【はじめに,目的】肩腱板機能低下により,上肢挙上時の肩甲骨上方回旋が大きくなると報告されているが,これらは保存症例や術後1年以上経過した症例のみを対象としている。肩腱板修復術後は腱板機能は低下し,修復腱板が腱様組織に回復するまで6ヵ月以上必要と考えられる。そのため,理学療法を行う上で術後6ヵ月以内の上肢挙上に伴う肩甲骨運動の推移を明らかにすべきと考えた。また,腱板の変性が肩甲骨運動に与える影響を検討した報告は見当たらない。そこで本研究は,棘上筋の変性の程度が棘上筋腱断裂症例の術前,術後の上肢挙上時の肩甲骨上方回旋角度に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象は健常群12名,棘上筋腱断裂症例9名とした。さらに腱板断裂群を術前のMRIからGoutallier stageで評価し2群に分けた:A群(5症例,Stage 1;5名),B群(4症例,Stage 2;3名・Stage 3;1名)。対象の肩関節をCT(ECLOS,日立メディコ)で撮影し,画像処理ソフトウェア(Mimics 14.12,Materialise Inc.)を用いて上腕骨・肩甲骨モデルを作成した。次に肩甲骨面での上肢挙上動作をX線透視装置(Stenoscop 6000,GE Medical Systems)で撮影した。腱板断裂群は術前,術後2ヶ月,5ヶ月で撮影を行った。そして,2D/3D registration法を用いて上肢挙上30,60,90,120度での上肢挙上動作を再現し,肩甲骨座標系に対する上腕骨座標系の回転をオイラー角で表した。各上肢挙上角度での3群間の肩甲骨上方回旋角度の比較と,A群内,B群内の術前,術後2ヶ月,5ヶ月の肩甲骨上方回旋角度の比較を行った。統計学的検定は,二元配置分散分析を行った。
【結果】健常群の肩甲骨上方回旋角度は上肢挙上30-120度間において平均13.2,25.2,37.7,50.4度であった。A群では術前,術後2ヵ月,5ヵ月において,上肢挙上30-90度までは健常群と同様の傾向を示したが,上肢挙上120度では術後2ヵ月で57.9度を示し,有意に健常群より大きい値かった(p<.05)。B群では術前,術後2ヵ月,5ヵ月において,全ての上肢挙上角度で健常群より肩甲骨上方回旋角度が大きく,術後2ヵ月と5ヵ月の上肢挙上120度において63.3,61.3度と健常群より有意に大きい値を示した(p<.05)。A群内では術前,術後2ヵ月,5ヵ月において同様の傾向を示したが,B群内では術前に比べ,術後2ヵ月,5ヵ月において上肢挙上60-120度間で大きい傾向を示した。
【結論】変性の少ない棘上筋腱断裂症例では,術後2ヵ月での上肢挙上120度において大きい肩甲骨上方回旋を示したが,術後5ヵ月では改善していた。これより,術前に腱板の変性が少ないと術後の機能的な改善も期待できることが明らかとなった。一方,変性の大きい棘上筋腱断裂症例では,術後の機能的な改善には5ヵ月以上要すると考えられる。この様な症例に対する理学療法では,上肢挙上時の肩甲骨運動が健常群と近似するまでは過負荷となる運動を行わない点を留意すべきである。
【方法】対象は健常群12名,棘上筋腱断裂症例9名とした。さらに腱板断裂群を術前のMRIからGoutallier stageで評価し2群に分けた:A群(5症例,Stage 1;5名),B群(4症例,Stage 2;3名・Stage 3;1名)。対象の肩関節をCT(ECLOS,日立メディコ)で撮影し,画像処理ソフトウェア(Mimics 14.12,Materialise Inc.)を用いて上腕骨・肩甲骨モデルを作成した。次に肩甲骨面での上肢挙上動作をX線透視装置(Stenoscop 6000,GE Medical Systems)で撮影した。腱板断裂群は術前,術後2ヶ月,5ヶ月で撮影を行った。そして,2D/3D registration法を用いて上肢挙上30,60,90,120度での上肢挙上動作を再現し,肩甲骨座標系に対する上腕骨座標系の回転をオイラー角で表した。各上肢挙上角度での3群間の肩甲骨上方回旋角度の比較と,A群内,B群内の術前,術後2ヶ月,5ヶ月の肩甲骨上方回旋角度の比較を行った。統計学的検定は,二元配置分散分析を行った。
【結果】健常群の肩甲骨上方回旋角度は上肢挙上30-120度間において平均13.2,25.2,37.7,50.4度であった。A群では術前,術後2ヵ月,5ヵ月において,上肢挙上30-90度までは健常群と同様の傾向を示したが,上肢挙上120度では術後2ヵ月で57.9度を示し,有意に健常群より大きい値かった(p<.05)。B群では術前,術後2ヵ月,5ヵ月において,全ての上肢挙上角度で健常群より肩甲骨上方回旋角度が大きく,術後2ヵ月と5ヵ月の上肢挙上120度において63.3,61.3度と健常群より有意に大きい値を示した(p<.05)。A群内では術前,術後2ヵ月,5ヵ月において同様の傾向を示したが,B群内では術前に比べ,術後2ヵ月,5ヵ月において上肢挙上60-120度間で大きい傾向を示した。
【結論】変性の少ない棘上筋腱断裂症例では,術後2ヵ月での上肢挙上120度において大きい肩甲骨上方回旋を示したが,術後5ヵ月では改善していた。これより,術前に腱板の変性が少ないと術後の機能的な改善も期待できることが明らかとなった。一方,変性の大きい棘上筋腱断裂症例では,術後の機能的な改善には5ヵ月以上要すると考えられる。この様な症例に対する理学療法では,上肢挙上時の肩甲骨運動が健常群と近似するまでは過負荷となる運動を行わない点を留意すべきである。