[P-MT-33-2] 片側変形性股関節症患者の脚長差に対する補高効果
Keywords:変形性股関節症, 脚長差, 補高
【はじめに,目的】
変形性股関節症(股OA)患者では,関節裂隙の狭小化により,脚長差がしばしば生じる。一般的に行われる足底板による脚長差の補正(補高)の効果について詳細に検証した報告は少ない。我々は,股OA患者に対する補高によって,歩行時に患側への荷重負荷を増大させることなく,健側の支持性を高められることを明らかにした。しかし,下肢の関節角度,関節モーメントおよび床反力前後成分との関係は明らかではない。本研究の目的は,股OA患者の補高による即時的な運動学的・運動力学的変化を明らかにすることである。
【方法】
対象は10m以上独歩可能かつ1cm以上の脚長差を有する末期片側性股OA患者8例(63.8±3.8歳)とした。補高は,脚長差が1cm以内になるように患側へ足底板を適用して実施した。補高の有無による2条件の快適速度の歩行を3次元動作解析装置,床反力計を使用して計測した。得られたデータから,時間的・空間的指標として歩行速度,歩行率,歩幅,立脚時間,運動学的指標として矢状面下肢関節角度,運動力学的指標として床反力垂直・前後成分,矢状面下肢関節モーメントを算出した。床反力垂直成分の極値として,立脚期前半と後半に生じる2つの峰の第1最大値(Fz1),第2最大値(Fz3)とその間の最小値(Fz2)を求めた。床反力前後成分の極値として,制動成分の最大値(Fx1)と推進成分の最大値(Fx2)を求めた。また,床反力垂直成分と制動成分,推進成分それぞれの積分値を算出した。歩行時の疼痛はVisual Analog Scale(VAS)で算出した。統計解析は,補高前後での各歩行パラメータの比較をWilcoxonの符号付き順位検定を用いて行った。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
平均脚長差は1.99±0.47cmであった。補高の有無では,歩行速度(p=0.068),歩行率,患側歩幅,健側歩幅(p=0.063),立脚時間,歩行時疼痛,関節モーメントともに差を認めなかった。補高によって,患側股関節最大屈曲角度,立脚後期における患側足関節最大背屈角度,健側足関節最大底屈角度,健側Fz1,患側の床反力推進成分積分値が有意に増大し,立脚後期における健側足関節背屈角度は有意に減少した。
【結論】
脚長差を有する股OA患者は墜落性跛行を呈し,代償的適応には,患側立脚後期の伸び上がりや健側立脚後期での重心降下が挙げられる。今回,補高によって脚長差に起因する患側足関節での伸び上がりが減少し,推進力が増加することで健側立脚初期における衝撃を強く受けることが可能になったと推察される。また,健側立脚後期で足関節背屈角度が減少し,健側遊脚初期での足関節底屈角度が増加したことから,足関節の重心移動の代償的制御が軽減したと推察される。よって補高適用は,患側荷重負荷や疼痛を増加させることなく,脚長差を有する股OA患者の代償的戦略を軽減でき,患側下肢機能を高められることが示唆された。
変形性股関節症(股OA)患者では,関節裂隙の狭小化により,脚長差がしばしば生じる。一般的に行われる足底板による脚長差の補正(補高)の効果について詳細に検証した報告は少ない。我々は,股OA患者に対する補高によって,歩行時に患側への荷重負荷を増大させることなく,健側の支持性を高められることを明らかにした。しかし,下肢の関節角度,関節モーメントおよび床反力前後成分との関係は明らかではない。本研究の目的は,股OA患者の補高による即時的な運動学的・運動力学的変化を明らかにすることである。
【方法】
対象は10m以上独歩可能かつ1cm以上の脚長差を有する末期片側性股OA患者8例(63.8±3.8歳)とした。補高は,脚長差が1cm以内になるように患側へ足底板を適用して実施した。補高の有無による2条件の快適速度の歩行を3次元動作解析装置,床反力計を使用して計測した。得られたデータから,時間的・空間的指標として歩行速度,歩行率,歩幅,立脚時間,運動学的指標として矢状面下肢関節角度,運動力学的指標として床反力垂直・前後成分,矢状面下肢関節モーメントを算出した。床反力垂直成分の極値として,立脚期前半と後半に生じる2つの峰の第1最大値(Fz1),第2最大値(Fz3)とその間の最小値(Fz2)を求めた。床反力前後成分の極値として,制動成分の最大値(Fx1)と推進成分の最大値(Fx2)を求めた。また,床反力垂直成分と制動成分,推進成分それぞれの積分値を算出した。歩行時の疼痛はVisual Analog Scale(VAS)で算出した。統計解析は,補高前後での各歩行パラメータの比較をWilcoxonの符号付き順位検定を用いて行った。統計学的有意水準は5%未満とした。
【結果】
平均脚長差は1.99±0.47cmであった。補高の有無では,歩行速度(p=0.068),歩行率,患側歩幅,健側歩幅(p=0.063),立脚時間,歩行時疼痛,関節モーメントともに差を認めなかった。補高によって,患側股関節最大屈曲角度,立脚後期における患側足関節最大背屈角度,健側足関節最大底屈角度,健側Fz1,患側の床反力推進成分積分値が有意に増大し,立脚後期における健側足関節背屈角度は有意に減少した。
【結論】
脚長差を有する股OA患者は墜落性跛行を呈し,代償的適応には,患側立脚後期の伸び上がりや健側立脚後期での重心降下が挙げられる。今回,補高によって脚長差に起因する患側足関節での伸び上がりが減少し,推進力が増加することで健側立脚初期における衝撃を強く受けることが可能になったと推察される。また,健側立脚後期で足関節背屈角度が減少し,健側遊脚初期での足関節底屈角度が増加したことから,足関節の重心移動の代償的制御が軽減したと推察される。よって補高適用は,患側荷重負荷や疼痛を増加させることなく,脚長差を有する股OA患者の代償的戦略を軽減でき,患側下肢機能を高められることが示唆された。