第52回日本理学療法学術大会

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日本運動器理学療法学会 » ポスター発表

[P-MT-35] ポスター(運動器)P35

2017年5月13日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本運動器理学療法学会

[P-MT-35-2] 加齢が人工股関節全置換術後の下肢機能に及ぼす影響について

二宮 一成1, 池田 崇2, 鈴木 浩次1, 佐藤 良治1, 平川 和男1 (1.湘南鎌倉人工関節センター, 2.昭和大学保健医療学部)

キーワード:人工股関節全置換術(THA), 加齢, 筋力

【はじめに,目的】

人工股関節全置換術(THA)を受ける患者の年齢は,主に60歳代以降であるが,この60歳代以降という年齢は,加齢に伴う身体機能の低下が大きく生じると報告されている。しかし,これまでにTHA後の下肢機能と加齢の関連性については報告が少ない。そこで,本研究では,THA後の下肢機能と加齢の関連性について検討することとした。




【方法】

対象は,手術から術後3年まで65歳未満であった片側変形性股関節症(股OA)女性患者30名(中年群)(年齢=57.0±2.7歳,BMI=23.1±2.7kg/m2)と手術時に65歳以上であった片側股OA女性患者25名(高齢群)(年齢=70.0±3.9歳,BMI=23.0±2.9kg/m2)とした。

主評価項目は,術前,術後6ヵ月,術後1年,術後3年のHarris Hip Score(HHS),等尺性股関節外転筋力(外転筋力),骨盤傾斜角(PIA)とした。外転筋力の測定は,ハンドヘルドダイナモメーターを用いてトルク体重比(Nm/kg)を算出した。PIAは,土井口らの方法に基づき,臥位骨盤正面X線画像で,骨盤腔の最大横径(T)と最大縦径(L)を計測し,回帰式(PIA=-69×L/T+61.6)より算出した。統計学的解析は,反復測定による一元配置分散分析後にTukey-Kramer法を用いて両群間を比較した。有意水準は5%未満とした。




【結果】

HHSと外転筋力は,術前から術後3年間の全ての期間において両群間に有意な差を認めなかった(術前HHS:中年群59.9±11.6点,高齢群62.3±12.7点;術後3年HHS:中年群97.4±4.2点,高齢群97.0±4.3点)(術前外転筋力:中年群0.61±0.16Nm/kg,高齢群0.62±0.26Nm/kg;術後3年外転筋力:中年群0.87±0.15Nm/kg,高齢群0.81±0.16Nm/kg)。一方,術前から術後3年間の全ての期間において,高齢群のPIAは,中年群よりも有意に高値であった(術前PIA:中年群17.6±5.6°,高齢群23.6±5.9°,p<0.05;術後3年PIA:中年群22.4±7.1°,高齢群27.3±5.7°,p<0.05)。






【結論】

THA後の外転筋力は,健康高齢者の加齢変化に関する先行研究と相違が認められた。これまでにFiataroneらは,90歳代の虚弱高齢者を対象に筋力増強トレーニングを行った結果,筋肥大を伴う筋力増強効果が認められたと報告している。当院では,術後6ヵ月以降経過した患者に対しても定期的な診察と理学療法介入を行い,個々の運動機能に合わせた運動を指導している。この適切な運動指導がTHA後の外転筋力に効果を発揮したと考えた。また,山田らは,骨盤後傾角度の増大に伴い外転筋力は有意に低下すると報告しているが,本研究では相違した結果となった。これまでに池田らは,THA後の外転筋力には術前の外転筋力が強く関連していると報告している。先行研究の対象は健康者であるが,本研究の対象は股OA患者であり骨盤傾斜角度と外転筋力は関連していなかったと推察した。以上のことから,THA後の外転筋力には,加齢変化よりも術前の外転筋力や定期的な運動が関連する要因と考えた。