[P-MT-50-1] 変形膝関節症症例におけるFunctional Reach TestとQOLとの相関性の検討
Keywords:変形性膝関節症, ファンクショナルリーチテスト, QOL
【はじめに,目的】
変形性膝関節症(以下,膝OA)は高齢者の生活の質(以下,QOL)を低下させる主な要因の1つといわれている。近年,膝OA症例においてバランス能力が低下していることが数多く報告されてきた。膝OA症例におけるバランス能力低下は,QOLの低下を導く一因であると考えられ,過去にも検討されているものの一致した見解は得られていない。これらの先行研究の多くは静的バランスを動作課題としており,動的バランスとの関連を検討した研究は少ない。比較的日常生活動作に近いと思われるFunctional Reach Testのような動的バランス評価が,膝OA症例のQOLをより反映する可能性があると思われるが,その関連は不明である。したがって本研究の目的はFunctional Reach Testが膝OA症例のQOLと関連するかを明らかにすることであった。
【方法】
対象は膝OAと診断された女性8名(69.4±7.4歳,152.4±7.8cm,57.5±19.9kg)であった。動作課題はFunctional Reach Testとし,動作計測にはカメラと三次元動作解析装置(Motion Analysis社製),床反力計(Kistler社製)を用いて行った。また反射マーカーを手関節中央部に貼付した。得られたデータからFunctional Reach Test時の前方へのリーチ距離と足圧中心(以下,COP)移動距離を算出した。QOLの評価には,日本版変形性膝関節症患者機能評価表(以下,JKOM)を用いた。合計点および各下位項目(膝の痛みの程度・膝の痛みとこわばり・日常生活動作の状態・ふだんの活動など・健康状態について)を計算した。統計にはSpearmanの順位相関係数を用いて,Functional Reach Test時の前方リーチ距離・前方COP移動距離と,JKOM合計点および各下位項目との相関を検討した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
Functional Reach Test時の前方COP移動距離とJKOM合計点(R=-0.73,P=0.04),および下位項目である「膝の痛みとこわばり」(R=-0.75,P=0.03),「日常生活動作の状態」(R=-0.76,P=0.03)との間に有意な相関を認めた。前方リーチ距離では有意な関連を認めなかった。
【結論】
本研究はFunctional Reach Test時の前方COP移動距離の減少と,膝OA症例のQOL低下が関連することを明らかにした。QOL低下を認める膝OA症例では動的バランスが低下している可能性を示唆した結果と考えられる。近年,膝OA症例では転倒リスクが高いことが報告されており,膝OA症例のバランスに対する理学療法の重要性が示唆されている。本研究結果より,QOL改善の観点からも膝OA症例に対するバランスに対するアプローチが重要であると思われた。一方,臨床現場でしばしば使用されるFunctional Reach Test時の前方リーチ距離では有意な関連を認めなかった。膝OA症例のバランス評価においては前方COP移動距離の計測がより有用である可能性が考えられた。今後はさらに症例数を増やして検討を進めていきたい。
変形性膝関節症(以下,膝OA)は高齢者の生活の質(以下,QOL)を低下させる主な要因の1つといわれている。近年,膝OA症例においてバランス能力が低下していることが数多く報告されてきた。膝OA症例におけるバランス能力低下は,QOLの低下を導く一因であると考えられ,過去にも検討されているものの一致した見解は得られていない。これらの先行研究の多くは静的バランスを動作課題としており,動的バランスとの関連を検討した研究は少ない。比較的日常生活動作に近いと思われるFunctional Reach Testのような動的バランス評価が,膝OA症例のQOLをより反映する可能性があると思われるが,その関連は不明である。したがって本研究の目的はFunctional Reach Testが膝OA症例のQOLと関連するかを明らかにすることであった。
【方法】
対象は膝OAと診断された女性8名(69.4±7.4歳,152.4±7.8cm,57.5±19.9kg)であった。動作課題はFunctional Reach Testとし,動作計測にはカメラと三次元動作解析装置(Motion Analysis社製),床反力計(Kistler社製)を用いて行った。また反射マーカーを手関節中央部に貼付した。得られたデータからFunctional Reach Test時の前方へのリーチ距離と足圧中心(以下,COP)移動距離を算出した。QOLの評価には,日本版変形性膝関節症患者機能評価表(以下,JKOM)を用いた。合計点および各下位項目(膝の痛みの程度・膝の痛みとこわばり・日常生活動作の状態・ふだんの活動など・健康状態について)を計算した。統計にはSpearmanの順位相関係数を用いて,Functional Reach Test時の前方リーチ距離・前方COP移動距離と,JKOM合計点および各下位項目との相関を検討した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
Functional Reach Test時の前方COP移動距離とJKOM合計点(R=-0.73,P=0.04),および下位項目である「膝の痛みとこわばり」(R=-0.75,P=0.03),「日常生活動作の状態」(R=-0.76,P=0.03)との間に有意な相関を認めた。前方リーチ距離では有意な関連を認めなかった。
【結論】
本研究はFunctional Reach Test時の前方COP移動距離の減少と,膝OA症例のQOL低下が関連することを明らかにした。QOL低下を認める膝OA症例では動的バランスが低下している可能性を示唆した結果と考えられる。近年,膝OA症例では転倒リスクが高いことが報告されており,膝OA症例のバランスに対する理学療法の重要性が示唆されている。本研究結果より,QOL改善の観点からも膝OA症例に対するバランスに対するアプローチが重要であると思われた。一方,臨床現場でしばしば使用されるFunctional Reach Test時の前方リーチ距離では有意な関連を認めなかった。膝OA症例のバランス評価においては前方COP移動距離の計測がより有用である可能性が考えられた。今後はさらに症例数を増やして検討を進めていきたい。