The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本運動器理学療法学会 » ポスター発表

[P-MT-50] ポスター(運動器)P50

Sun. May 14, 2017 1:00 PM - 2:00 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本運動器理学療法学会

[P-MT-50-2] 重度変形性膝関節症患者に対する歩行能力の標準値と標準範囲の検討

天野 徹哉1, 伊藤 秀幸2, 田中 繁治3, 森川 真也4, 内田 茂博5 (1.常葉大学, 2.山口コ・メディカル学院, 3.川崎リハビリテーション学院, 4.放射線第一病院, 5.広島国際大学)

Keywords:臨床判断, 歩行速度, TUG

【はじめに】超高齢社会を迎えた我が国では,変形性膝関節症(膝OA)の罹患者数は年々増加しており,臨床症状としては歩行能力の低下が最も問題となる。また,歩行能力は,理学療法分野において重要なアウトカムのひとつである。そのため,理学療法士は,膝OA患者の歩行能力の状態を的確に把握する必要がある。しかしながら,膝OA患者の歩行能力を客観的に判断する指標は示されていない。本研究の目的は,重度膝OA患者の歩行能力に関連する因子について検討し,標準値と標準範囲を明らかにすることである。



【方法】対象は,2013年7月~2016年7月の間に協力が得られた7施設において膝OAと診断され,選択基準を満たした109名(男性19名,女性90名)とした。取込基準はKellgren-Lawrence分類(KL分類)がGrade3あるいはGrade4の者とし,除外基準は人工膝関節置換術の手術歴がある者とした。研究デザインは横断研究であり,歩行能力を評価する指標として5m最大歩行速度(5mMWS)とTUG,背景因子として性別・年齢・BMI・KL分類・障害側(両側性・片側性),身体機能として膝関節伸展筋力・膝関節屈曲筋力・膝伸展ROM・膝屈曲ROM・疼痛(NRS)の調査・測定を行った。歩行能力の関連因子を検討するために,5mMWSとTimed up & go test(TUG)をアウトカムとした重回帰分析を行った。重回帰分析では,背景因子を説明変数としてステップワイズ法にて投入し,身体機能を交絡因子として強制投入した。そして,重回帰分析によって抽出された因子を基に階級分けを行い,中央値と四分位範囲を用いて標準値と標準範囲を算出した。統計ソフトはSPSS Statistics 22を使用し,有意水準は5%とした。



【結果】5mMWSをアウトカムとした重回帰分析の結果(p<0.001,R2=0.386),年齢(p<0.001,β=-0.352)が関連因子として抽出された。また,TUGをアウトカムとした重回帰分析の結果(p<0.001,R2=0.288),年齢(p=0.014,β=0.220)が関連因子として抽出された。すなわち,年齢が高いほど,歩行能力は低下していたが,歩行能力と性別や重症度との関連性は認められなかった。そのため,重度膝OA患者に対する歩行能力の標準値と標準範囲は,年代別に算出した。5mMWSの標準値と標準範囲は,60代が1.34(1.10-1.53)m/秒,70代が1.22(0.90-1.39)m/秒,80代が0.92(0.78-1.08)m/秒であった。TUGの標準値と標準範囲は,60代が8.8(7.7-9.7)秒,70代が10.0(8.4-11.9)秒,80代が11.6(9.5-14.9)秒であった。



【結論】健常高齢者における歩行速度とTUGの年代別基準値は,各年代における歩行能力の程度を把握するためには有用な指標となるが,膝OA患者の状態を把握するための指標とするには限界がある。本研究における標準値と標準範囲は,重度膝OA患者の歩行能力を把握する際の貴重な情報源になるため,治療法の選択などの臨床判断に役立つ指標になると考える。