[P-MT-51-5] 人工膝関節全置換術前後における患者の精神的要素の変化とその要因について
Keywords:人工膝関節全置換術, 精神的要素, 痛み
【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術(以下TKA)は変形性膝関節症患者における外科的治療として,除痛や機能回復に大いに貢献している。しかし,患者満足度の低さや,疼痛や機能回復の遅延などが少なからず報告されている。それらの原因について,近年ではTKA患者における精神的要素に注目が集まっている。そこで本研究では,TKA術前後の精神的要素の変化とその要因を調査することを目的とする。
【方法】
対象者は平成28年4月から平成28年9月までに当院で初回TKAを施行された18名の内,リウマチ,重篤な併存疾患(心疾患,神経筋疾患),認知障害を有するもの,各測定項目に欠損があるものを除外した14名(年齢71±7歳,BMI27.5±3.1男性2名,女性12名)とした。測定項目は精神的要素として1)Pain catastrophizing scale(以下PCS)と2)Self-Efficacy for Rehabilitation Outcome Scale(以下SER),Quality of life(以下QOL)要素として 3)日本語版Western Ontario and McMaster Universities Arthritis身体項目(WOMAC-F),疼痛項目(WOMAC-P),その他の要素として4)Timed up and go(以下TUG),5)安静時疼痛(NRS),6)歩行時疼痛(NRS)とした。各項目は術前と術後3週目に測定した。PCSとSERの術前後(術前と術後3週目)の変化を調べるため,Wilcoxonの符号順位検定を用いた。また,PCSとSERはその他の評価項目との関連を調べるため,Spearmanの順位相関係数を用いた。統計処理にはEZR version1.33を使用した(有意水準は5%未満)。
【結果】
PCSの術前と術後3週は有意差が検出された(p<0.05)。SERの術前と術後3週は有意差が検出されなかった。術後3週目のPCSは,術後3週目の安静時疼痛(r=0.557 p<0.05),歩行時疼痛(r=0.547 p<0.05),WOMAC-F(r=-0.648 p<0.05),WOMAC-P(r=-0.621 p<0.05)と有意な関連を認めた。術前PCS,術前および術後3週目のSERとその他の評価項目との間に有意な関連は認めなかった。
【結論】
PCSは痛みに対するネガティブな思考である破局的思考を表すスケールであり,TKA術後疼痛の遅延と関連している。TKA術前後におけるPCSの変化は先行研究では一貫した結論には至っていない。本研究の結果から,PCSは術前後で変化し,その主な変化の要因が術後疼痛の程度であると示唆された。また,術後PCSは術後のWOMAC-Fとも相関があり,疼痛管理や破局的思考の改善が疼痛の遅延予防やQOLの向上に関与する可能性がある。SERは人工関節のリハビリにおける自己効力感スケールであるが,本研究の結果ではSERは術前後で変化はなく,術後のTUGやQOLに関連は認められなかった。術前の時点で手術後の痛みを中心とした状況変化について,患者教育や予後提示などの心理的な介入の必要性が示唆される結果となった。
人工膝関節全置換術(以下TKA)は変形性膝関節症患者における外科的治療として,除痛や機能回復に大いに貢献している。しかし,患者満足度の低さや,疼痛や機能回復の遅延などが少なからず報告されている。それらの原因について,近年ではTKA患者における精神的要素に注目が集まっている。そこで本研究では,TKA術前後の精神的要素の変化とその要因を調査することを目的とする。
【方法】
対象者は平成28年4月から平成28年9月までに当院で初回TKAを施行された18名の内,リウマチ,重篤な併存疾患(心疾患,神経筋疾患),認知障害を有するもの,各測定項目に欠損があるものを除外した14名(年齢71±7歳,BMI27.5±3.1男性2名,女性12名)とした。測定項目は精神的要素として1)Pain catastrophizing scale(以下PCS)と2)Self-Efficacy for Rehabilitation Outcome Scale(以下SER),Quality of life(以下QOL)要素として 3)日本語版Western Ontario and McMaster Universities Arthritis身体項目(WOMAC-F),疼痛項目(WOMAC-P),その他の要素として4)Timed up and go(以下TUG),5)安静時疼痛(NRS),6)歩行時疼痛(NRS)とした。各項目は術前と術後3週目に測定した。PCSとSERの術前後(術前と術後3週目)の変化を調べるため,Wilcoxonの符号順位検定を用いた。また,PCSとSERはその他の評価項目との関連を調べるため,Spearmanの順位相関係数を用いた。統計処理にはEZR version1.33を使用した(有意水準は5%未満)。
【結果】
PCSの術前と術後3週は有意差が検出された(p<0.05)。SERの術前と術後3週は有意差が検出されなかった。術後3週目のPCSは,術後3週目の安静時疼痛(r=0.557 p<0.05),歩行時疼痛(r=0.547 p<0.05),WOMAC-F(r=-0.648 p<0.05),WOMAC-P(r=-0.621 p<0.05)と有意な関連を認めた。術前PCS,術前および術後3週目のSERとその他の評価項目との間に有意な関連は認めなかった。
【結論】
PCSは痛みに対するネガティブな思考である破局的思考を表すスケールであり,TKA術後疼痛の遅延と関連している。TKA術前後におけるPCSの変化は先行研究では一貫した結論には至っていない。本研究の結果から,PCSは術前後で変化し,その主な変化の要因が術後疼痛の程度であると示唆された。また,術後PCSは術後のWOMAC-Fとも相関があり,疼痛管理や破局的思考の改善が疼痛の遅延予防やQOLの向上に関与する可能性がある。SERは人工関節のリハビリにおける自己効力感スケールであるが,本研究の結果ではSERは術前後で変化はなく,術後のTUGやQOLに関連は認められなかった。術前の時点で手術後の痛みを中心とした状況変化について,患者教育や予後提示などの心理的な介入の必要性が示唆される結果となった。