[P-NV-01-3] 脳卒中片麻痺患者への歩行練習アシストの効果
―発症から3ヶ月後にロボット練習を実施した2症例―
Keywords:脳卒中, 歩行練習, ロボット
【はじめに,目的】
当院ではトヨタ自動車と藤田保健衛生大学が共同開発した歩行練習アシスト(Gait Exercise Assist Robot;以下,GEAR)を臨床導入している。GEARの適応は発症から3ヶ月以内の脳卒中片麻痺で歩行時に膝折れのリスクがある患者が推奨されているが,今回,当院回復期リハビリテーション病棟に入院し,発症から3ヶ月経過した2例の脳卒中患者に対してGEARを用いた歩行練習(以下,GEAR練習)を実施した結果,一定の歩行能力の向上を認めた。この経験を整理し,GEARの効果を検証することを目的とした。
【方法】
対象は左前大脳動脈領域の脳梗塞により右片麻痺を呈した60歳代男性(以下,症例1)と右被殻出血により左片麻痺を呈した50歳代女性(以下,症例2)。GEAR練習はそれぞれ発症後96日(入院後59日),132日(入院後84日)より開始し,1日40分,週5回の頻度で,5週および3週間実施した。評価項目はStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)の下肢運動・感覚・体幹機能項目,下肢Brunnstrom Stage(以下,Br.s),Gait Ability Assessment(10m歩行時の歩行能力をFIMに準拠して採点した独自の指標;以下,GAA),1日の歩行練習距離(以下,歩行距離)等とし,1週毎に評価を行った。研究デザインはGEAR練習による介入期(以下,B期)とその前後に同期間のベースライン期(以下,A1期・A2期)を設けたABA型シングルケーススタディとした。
【結果】
症例1では,A1初期でSIAS下肢運動機能の合計は0,下肢感覚機能の合計は4,体幹機能の合計は6,Br.sはIIIで,各期を通じて変化がなかった。GAAの変化はA1期で2→2,B期で2→5,A2期で5→5,平均歩行距離はA1期で約70m,B期で約260m,A2期で約220mであった。
症例2では,A1初期でSIAS下肢運動機能の合計は1,下肢感覚機能の合計は0,体幹機能の合計は2,Br.sはIIIで,B期にSIAS下肢運動機能の合計が1→2へ変化し,その他の項目は各期を通じて変化がなかった。GAAの変化はA1期で2→2,B期で2→4,A2期で4→4,平均歩行距離はA1期で約120m,B期で約280m,A2期で130mであった。
【結論】
本研究の2症例は重度の片麻痺を呈しており,下肢運動・感覚・体幹機能の変化は少なかったが,歩行能力はGEAR練習時期に,より向上を認めた。GEARは歩行能力の変化に応じて遊脚・立脚期での最適な介助の調整やフィードバックが可能であり,従来の歩行練習よりも多くの歩行量を確保できるため,振り出しに対する効率的な運動学習や立脚期の安定向上に寄与し,歩行能力が向上したと考えた。脳卒中ガイドライン2015では,歩行補助ロボットを用いた歩行練習は発症3ヶ月以内の歩行不能例に勧められる(グレードB)とされている。本研究は2症例のシングルケーススタディであり,エビデンスレベルは低いが,「GEARは発症から3ヶ月以上経過した患者でも有効ではないか」とのリサーチクエスチョンを提案し,今後,科学的根拠に基づいた研究モデルにより仮説検証を行いたい。
当院ではトヨタ自動車と藤田保健衛生大学が共同開発した歩行練習アシスト(Gait Exercise Assist Robot;以下,GEAR)を臨床導入している。GEARの適応は発症から3ヶ月以内の脳卒中片麻痺で歩行時に膝折れのリスクがある患者が推奨されているが,今回,当院回復期リハビリテーション病棟に入院し,発症から3ヶ月経過した2例の脳卒中患者に対してGEARを用いた歩行練習(以下,GEAR練習)を実施した結果,一定の歩行能力の向上を認めた。この経験を整理し,GEARの効果を検証することを目的とした。
【方法】
対象は左前大脳動脈領域の脳梗塞により右片麻痺を呈した60歳代男性(以下,症例1)と右被殻出血により左片麻痺を呈した50歳代女性(以下,症例2)。GEAR練習はそれぞれ発症後96日(入院後59日),132日(入院後84日)より開始し,1日40分,週5回の頻度で,5週および3週間実施した。評価項目はStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)の下肢運動・感覚・体幹機能項目,下肢Brunnstrom Stage(以下,Br.s),Gait Ability Assessment(10m歩行時の歩行能力をFIMに準拠して採点した独自の指標;以下,GAA),1日の歩行練習距離(以下,歩行距離)等とし,1週毎に評価を行った。研究デザインはGEAR練習による介入期(以下,B期)とその前後に同期間のベースライン期(以下,A1期・A2期)を設けたABA型シングルケーススタディとした。
【結果】
症例1では,A1初期でSIAS下肢運動機能の合計は0,下肢感覚機能の合計は4,体幹機能の合計は6,Br.sはIIIで,各期を通じて変化がなかった。GAAの変化はA1期で2→2,B期で2→5,A2期で5→5,平均歩行距離はA1期で約70m,B期で約260m,A2期で約220mであった。
症例2では,A1初期でSIAS下肢運動機能の合計は1,下肢感覚機能の合計は0,体幹機能の合計は2,Br.sはIIIで,B期にSIAS下肢運動機能の合計が1→2へ変化し,その他の項目は各期を通じて変化がなかった。GAAの変化はA1期で2→2,B期で2→4,A2期で4→4,平均歩行距離はA1期で約120m,B期で約280m,A2期で130mであった。
【結論】
本研究の2症例は重度の片麻痺を呈しており,下肢運動・感覚・体幹機能の変化は少なかったが,歩行能力はGEAR練習時期に,より向上を認めた。GEARは歩行能力の変化に応じて遊脚・立脚期での最適な介助の調整やフィードバックが可能であり,従来の歩行練習よりも多くの歩行量を確保できるため,振り出しに対する効率的な運動学習や立脚期の安定向上に寄与し,歩行能力が向上したと考えた。脳卒中ガイドライン2015では,歩行補助ロボットを用いた歩行練習は発症3ヶ月以内の歩行不能例に勧められる(グレードB)とされている。本研究は2症例のシングルケーススタディであり,エビデンスレベルは低いが,「GEARは発症から3ヶ月以上経過した患者でも有効ではないか」とのリサーチクエスチョンを提案し,今後,科学的根拠に基づいた研究モデルにより仮説検証を行いたい。