第52回日本理学療法学術大会

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[P-NV-12] ポスター(神経)P12

2017年5月12日(金) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本神経理学療法学会

[P-NV-12-2] 椎骨動脈閉塞により生じたlateropulsionが長期的に残存し,リハビリテーションに難渋した症例の経過報告

池下 祥汰, 岡本 正幸, 菅野 ひとみ, 山根 悠加, 塩崎 智之, 中村 潤二 (西大和リハビリテーション病院)

キーワード:小脳疾患, 姿勢制御, 失調症状

【はじめに,目的】

Lateropulsion(LP)は身体が一側へと不随意に倒れてしまう症候であり,視覚的な垂直知覚の検査である自覚的視覚的垂直位(subjective visual vertical:SVV)の偏倚が報告されている。LPは早期に消失し予後は良好とされるが,今回発症から長期間LPが残存した症例を経験した。そこで本研究では,その経過とSVVや身体機能との関係を調査し,LPが残存した要因を検討した。

【方法】

症例は発症後38日経過した70歳代女性であり,椎骨動脈閉塞により左延髄背外側部,左小脳半球,左海馬に梗塞巣を認めた。入院時には,左上下肢に小脳性運動失調,左顔面・右上下肢の温痛覚鈍麻,めまい,眼瞼下垂を認めた。また立位,座位ともにLPが出現し,左側への転倒傾向があり自己修正は困難であった。LPは,Burke Lateropulsion Scale(BLS)にて評価し,2点以上でLPがあると判断される。垂直知覚はSVVを評価した。SVVは座位にて頸部を正中位に固定し,周辺視野の参照座標を除いた条件で,提示した線を回転させ,垂直と感じた角度を測定した。左右ランダムの角度から開始し,計10回測定した。SVVは,正の値が右偏位,負の値が左偏位を示し,平均値を算出した。その他に,姿勢制御はPostural Assessment Scale for Stroke Patient(PASS),小脳性運動失調はScale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA),認知機能は長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R),前頭葉機能はFrontal Assessment Battery(FAB),日常生活動作はBarthel Index(BI)を測定した。評価は発症より87日後から133日後までとし,SVVのみ毎日,HDS-R,FABは初期,最終時に,その他の項目は1週間ごとに評価した。

【結果】

BLSは4点で変化はなく,LPは残存した。練習場面において,立位姿勢は129日後より,垂直に修正可能なことが増えたが,ADL場面では修正困難で介助量が多く,退院時の187日後にも残存していた。SVVは-5.1±4.2°から-0.7±2.6°に徐々に改善した。その他の評価は,PASSは13点から24点となり姿勢変換項目が改善し,SARAは28点から18点となり運動失調は軽減したものの残存していた。HDS-Rは5点から16点,FABは4点から9点と改善したが,カットオフ値以下であった。BIは15点から50点に改善した。

【結論】

本症例ではSVVは経時的に改善したが,発症後133日においてもBLSに変化がなく,退院時にもLPが残存していた。先行研究での改善例は延髄に限局した病巣であり,本症例では小脳にも損傷があり運動失調がみられていた。そのためSVVは改善したものの,運動失調によって知覚情報を基にした姿勢制御が困難であったことや,認知機能や前頭葉機能低下により,練習場面での姿勢修正が汎化せずADL場面での姿勢の修正が困難であったことも長期的に残存した要因と考えられる。垂直知覚の改善がみられた場合でも,姿勢制御をするための運動機能の低下や認知機能低下を伴う症例では,LPが残存する可能性がある。