[P-NV-18-3] 足部機能による代償を促す介入により立位・歩行動作に改善を認めた聴神経鞘腫術後の一症例
Keywords:聴神経鞘腫, 足部機能, 前庭損傷
【はじめに,目的】
立位姿勢調節に必要な運動,感覚機能の1つが重度に障害された場合,他の機能で代償することが重要となる。今回,聴神経鞘腫摘出術により両側の前庭神経を損傷した希少な症例を担当した。介入当初,立位や歩行動作にかなりの不安定性を認めたが,足部機能を代償として使えていないことに着目し介入を行い,動作に改善を認めたため報告する。
【方法】
症例は60歳代の女性。現病歴は左聴神経鞘腫発症後に歩行困難となり,他院にて腫瘍摘出手術,シャント術施行。2ヶ月後リハビリ目的で当院入院。既往歴は右聴神経鞘腫摘出術(29年前),右小脳梗塞(5年前)。聴力は左重度難聴,右高度難聴にて補聴器使用。介入期間は術後約80日目からとした。初期評価では,Scale for the assessment and rating of ataxia(SARA)にて歩行6,立位4,踵-脛試験右1左2,Functional Assessment for Control of Trunk(FACT)3/20点,Berg Balance Scale(BBS)16/56点,SIASmotorは左右4,感覚は異常なしであった。歩行は中等度介助であり前方への転倒恐怖心が強く,左右ともに足指が浮き後方への転倒傾向を認めた。前方への重心移動,バランス機能に着目し,座位での重心移動練習や立ち上がり練習,立位バランス練習を実施した。2ヶ月後の中間評価でSARA歩行5,FACT11点,BBS30点,歩行は介助なしで7歩程度可能,ケイデンスは0.36歩/秒となった。しかし,歩行時は依然として足指が浮き,後方への転倒傾向を認めた。前庭機能の損傷のため足部での代償が必須のはずが,足指が浮くことで足部機能がうまく使えず不安定性を助長していると考えられた。また,重心動揺計による静止立位の評価では,足圧中心動揺の動揺速度(cm/s)が裸足で8.79,靴で6.08と計測する足部の条件で測定結果が変化していたことも足部機能に着目した理由であった。そこで前述の治療と併用して足指屈伸運動やタオルギャザー,足部の筋収縮を確認しながら立位バランス練習などの介入を約2ヶ月間実施した。
【結果】
最終評価ではSARA歩行4,立位2,踵-脛試験右1左2,FACT15点,BBS36点,歩行は介助なしで26歩程度可能,ケイデンスは1.03歩/秒となった。足部機能は足指屈曲MMTが左右3から右5左4,ビー玉掴み(10個)は右2分25秒から1分27秒へ,左2分35秒から47秒へと改善を認めた。重心動揺計では靴と裸足ともに閉眼立位が可能となり,動揺速度も中間評価時と比べ改善がみられた。
【結論】
本症例は姿勢制御における両側の前庭機能が損傷し,立位や歩行動作にかなりの不安定性を認めた。転倒恐怖心から前方荷重を避けるため足指が浮く状態での動作となり,それがさらに不安定性を助長したと考えられる。今回は代償可能な足部機能に着目し介入を行ったことである程度改善を認めた。本症例のように両側の前庭機能が損傷した状態であっても代償機構に着目し介入することで立位や歩行動作の不安定性の改善を見込めることが示唆された。
立位姿勢調節に必要な運動,感覚機能の1つが重度に障害された場合,他の機能で代償することが重要となる。今回,聴神経鞘腫摘出術により両側の前庭神経を損傷した希少な症例を担当した。介入当初,立位や歩行動作にかなりの不安定性を認めたが,足部機能を代償として使えていないことに着目し介入を行い,動作に改善を認めたため報告する。
【方法】
症例は60歳代の女性。現病歴は左聴神経鞘腫発症後に歩行困難となり,他院にて腫瘍摘出手術,シャント術施行。2ヶ月後リハビリ目的で当院入院。既往歴は右聴神経鞘腫摘出術(29年前),右小脳梗塞(5年前)。聴力は左重度難聴,右高度難聴にて補聴器使用。介入期間は術後約80日目からとした。初期評価では,Scale for the assessment and rating of ataxia(SARA)にて歩行6,立位4,踵-脛試験右1左2,Functional Assessment for Control of Trunk(FACT)3/20点,Berg Balance Scale(BBS)16/56点,SIASmotorは左右4,感覚は異常なしであった。歩行は中等度介助であり前方への転倒恐怖心が強く,左右ともに足指が浮き後方への転倒傾向を認めた。前方への重心移動,バランス機能に着目し,座位での重心移動練習や立ち上がり練習,立位バランス練習を実施した。2ヶ月後の中間評価でSARA歩行5,FACT11点,BBS30点,歩行は介助なしで7歩程度可能,ケイデンスは0.36歩/秒となった。しかし,歩行時は依然として足指が浮き,後方への転倒傾向を認めた。前庭機能の損傷のため足部での代償が必須のはずが,足指が浮くことで足部機能がうまく使えず不安定性を助長していると考えられた。また,重心動揺計による静止立位の評価では,足圧中心動揺の動揺速度(cm/s)が裸足で8.79,靴で6.08と計測する足部の条件で測定結果が変化していたことも足部機能に着目した理由であった。そこで前述の治療と併用して足指屈伸運動やタオルギャザー,足部の筋収縮を確認しながら立位バランス練習などの介入を約2ヶ月間実施した。
【結果】
最終評価ではSARA歩行4,立位2,踵-脛試験右1左2,FACT15点,BBS36点,歩行は介助なしで26歩程度可能,ケイデンスは1.03歩/秒となった。足部機能は足指屈曲MMTが左右3から右5左4,ビー玉掴み(10個)は右2分25秒から1分27秒へ,左2分35秒から47秒へと改善を認めた。重心動揺計では靴と裸足ともに閉眼立位が可能となり,動揺速度も中間評価時と比べ改善がみられた。
【結論】
本症例は姿勢制御における両側の前庭機能が損傷し,立位や歩行動作にかなりの不安定性を認めた。転倒恐怖心から前方荷重を避けるため足指が浮く状態での動作となり,それがさらに不安定性を助長したと考えられる。今回は代償可能な足部機能に着目し介入を行ったことである程度改善を認めた。本症例のように両側の前庭機能が損傷した状態であっても代償機構に着目し介入することで立位や歩行動作の不安定性の改善を見込めることが示唆された。