The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本神経理学療法学会 » ポスター発表

[P-NV-26] ポスター(神経)P26

Sun. May 14, 2017 11:40 AM - 12:40 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本神経理学療法学会

[P-NV-26-3] 脳卒中患者における酸素摂取量の時定数と最高酸素摂取量の関係

馬場 保人1, 小宅 一彰2,3, 小田 ちひろ4, 工藤 大輔1, 佐久間 達生1, 木下 琴音1, 近藤 国嗣1, 大高 洋平1,5 (1.東京湾岸湾岸リハビリテーション病院, 2.信州大学大学院, 3.日本学術振興会, 4.早稲田大学大学院, 5.慶應義塾大学)

Keywords:全身持久力, 呼気ガス分析, エルゴメータ

【はじめに,目的】

脳卒中発症後の全身持久力低下は,日常生活活動を制限する因子の一つである。全身持久力は,漸増負荷試験を行い最高酸素摂取量(Peak VO2)で評価される。脳卒中患者におけるPeak VO2の低下には,筋の萎縮や変性による酸素利用能の低下が影響する可能性がある(Billinger, et al., 2012)。筋における酸素利用能の評価として,定常負荷試験における酸素摂取量の時定数を測定する方法がある。しかしながら,脳卒中患者において酸素摂取量の時定数とPeak VO2の関係は十分に検討されていない。そこで本研究の目的は,脳卒中患者において,運動開始時に計測される酸素摂取量の時定数がPeak VO2と関連するかを検証することである。

【方法】

対象は,2014年11月から2015年7月までに当院回復期病棟に入院した初発脳卒中患者16名(男性12名,年齢61±12歳,体格指数21.2±2.5kg/m2,発症後86±39;平均±標準偏差)であった。麻痺側下肢の運動機能はBrunnstrom stageで,IIIが1名,IVが2名,Vが8名,VIが5名であった。採用基準は,認知症や高次脳機能障害がなく,漸増負荷運動で予測最大心拍数の85%に到達可能な者とした。除外基準は,内科的疾患により運動制限されている,運動課題の遂行に影響する関節拘縮や疼痛がある,および神経疾患の既往がある者とした。

運動課題は,エルゴメータを用いた下肢運動を実施した。3分間以上の安静座位後,10Wで3分間の定常負荷運動を行い,続いて運動負荷強度を1分ごとに10Wずつ漸増させた。運動中は,開始時の至適回転速度を維持するよう指示した。漸増負荷試験の終了基準は,アメリカスポーツ医学会のガイドラインに従った(2013)。酸素摂取量の時定数は,定常負荷運動中の呼気ガスデータから算出した。定常負荷運動開始時の酸素摂取応答曲線から指数回帰式を作成し,酸素摂取量が定常状態の約63%に至るまでの時間として時定数を求めた。この時定数の延長は,酸素利用能の低下を示す。また,全身持久力の指標としてPeak VO2を測定した。

統計解析では,酸素摂取量の時定数とPeak VO2の相関を検定するために,Pearson積率相関係数で検定した。有意水準は5%とした。

【結果】

すべての対象者において,漸増負荷試験による有害事象は認めなかった。酸素摂取量の時定数は43.6±14.0秒であった。Peak VO2は16.7±3.3mL/kg/minであった。酸素摂取量の時定数とPeak VO2は有意な負の相関を示した(r=-0.66,p<0.01)。

【結論】

運動開始時に計測される酸素摂取量の時定数は,Peak VO2と関連し,脳卒中患者における全身持久力の低下に対して筋における酸素利用能の低下が関連していることが示された。本研究の結果は,脳卒中患者における全身持久力低下のメカニズムの解明や治療方法の選択にも応用できる可能性があり,根拠に基づく理学療法を実践するうえで有意義な知見であると考えられる。