[P-NV-30-3] ヘッドマウントディスプレイを用いた視覚的外乱と身体動揺の関連
キーワード:重心動揺, 視覚的外乱刺激, ヘッドマウントディスプレイ
【はじめに,目的】
近年,virtual reality(VR)技術が著しく発展し,医療現場においても応用が行われている。リハビリテーション分野においても,VR環境による新たなアプローチ方法の開発が行われている。VR環境における視野全体の動きは,自己運動感覚を引き起こし,身体重心の移動が生じることが知られている。
脳卒中患者は,身体重心の非麻痺側偏位を示し,身体重心の偏位が大きいほど歩行能力等が低くなることが報告されている。重心移動を引き起こすことができるVR技術は新しい治療方法となる可能性がある。しかし,VR環境と身体重心の関係を詳細に調べた研究は少ない。そこで我々は,VR技術を用いた視覚的外乱と重心移動の関連を調べたので報告する。
【方法】
本研究は,視覚的外乱時の静的バランスを評価した。
健常成人女性5名,男性11名(年齢218±3.1歳)を対象とした。整形疾患および神経系疾患を有する者は除外した。
視覚的外乱はヘッドマウントディスプレイ(head mounted display:HMD)を用いて提示した。提示刺激は,ランダムドットパタンを左右の一方向に等速度で連続的に動かして行った。刺激強度は,20~100度/秒の範囲内で,20度/秒ずつ変えた。コントロールとして,注視点のみの提示刺激を用いた。被験者には,HMD装着状態で重心動揺計(Gravicoder GP-5000,anima)上に閉脚立位姿勢を取らせた。測定時間は1回30秒間とし,合計6回の測定を行った。重心動揺解析には刺激条件毎に総軌跡長(cm),X軸・Y軸軌跡長(cm)を求めた。統計学的検討には,各刺激条件下において,反復測定による一元配置分散分析,およびポストホックテストとして多重比較法(Bonferroni)を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
総軌跡長,X軸・Y軸軌跡長の平均値は,コントロール時が最も小さかった。60度/秒までの刺激速度では,速度の上昇に伴って軌跡長が増大した。80および100度/秒においては,60度/秒における変化と同程度であった。
総軌跡長は,コントロールと比較して60,80および100度/秒の刺激では軌跡長が約45%増大し,有意な重心動揺変化を示した(p<0.05)。X軸・Y軸の軌跡長は,60および100度/秒の刺激では,有意に増加(p<0.05)した。80度/秒においても増加したものの,有意差は認められなかった(X軸;p=0.07,Y軸;p=0.051)。
【結論】
本研究の結果から,健常成人においては,60度/秒以上の刺激速度が重心動揺の誘発に有効であることが示唆された。成人よりも視覚依存性の高い姿勢制御を行っているとされる高齢者や脳卒中患者等と比較して,刺激条件と加齢や疾病の影響について調査していく必要があると考えられる。
近年,virtual reality(VR)技術が著しく発展し,医療現場においても応用が行われている。リハビリテーション分野においても,VR環境による新たなアプローチ方法の開発が行われている。VR環境における視野全体の動きは,自己運動感覚を引き起こし,身体重心の移動が生じることが知られている。
脳卒中患者は,身体重心の非麻痺側偏位を示し,身体重心の偏位が大きいほど歩行能力等が低くなることが報告されている。重心移動を引き起こすことができるVR技術は新しい治療方法となる可能性がある。しかし,VR環境と身体重心の関係を詳細に調べた研究は少ない。そこで我々は,VR技術を用いた視覚的外乱と重心移動の関連を調べたので報告する。
【方法】
本研究は,視覚的外乱時の静的バランスを評価した。
健常成人女性5名,男性11名(年齢218±3.1歳)を対象とした。整形疾患および神経系疾患を有する者は除外した。
視覚的外乱はヘッドマウントディスプレイ(head mounted display:HMD)を用いて提示した。提示刺激は,ランダムドットパタンを左右の一方向に等速度で連続的に動かして行った。刺激強度は,20~100度/秒の範囲内で,20度/秒ずつ変えた。コントロールとして,注視点のみの提示刺激を用いた。被験者には,HMD装着状態で重心動揺計(Gravicoder GP-5000,anima)上に閉脚立位姿勢を取らせた。測定時間は1回30秒間とし,合計6回の測定を行った。重心動揺解析には刺激条件毎に総軌跡長(cm),X軸・Y軸軌跡長(cm)を求めた。統計学的検討には,各刺激条件下において,反復測定による一元配置分散分析,およびポストホックテストとして多重比較法(Bonferroni)を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
総軌跡長,X軸・Y軸軌跡長の平均値は,コントロール時が最も小さかった。60度/秒までの刺激速度では,速度の上昇に伴って軌跡長が増大した。80および100度/秒においては,60度/秒における変化と同程度であった。
総軌跡長は,コントロールと比較して60,80および100度/秒の刺激では軌跡長が約45%増大し,有意な重心動揺変化を示した(p<0.05)。X軸・Y軸の軌跡長は,60および100度/秒の刺激では,有意に増加(p<0.05)した。80度/秒においても増加したものの,有意差は認められなかった(X軸;p=0.07,Y軸;p=0.051)。
【結論】
本研究の結果から,健常成人においては,60度/秒以上の刺激速度が重心動揺の誘発に有効であることが示唆された。成人よりも視覚依存性の高い姿勢制御を行っているとされる高齢者や脳卒中患者等と比較して,刺激条件と加齢や疾病の影響について調査していく必要があると考えられる。