[P-SK-06-5] 3次元仮想空間内における右方空間のブラックアウトによる半側空間無視に対する注意誘導効果
身体近傍・身体外空間および課題特異的効果に基づいたシステムデザイン
Keywords:半側空間無視, 没入型仮想現実, 注意
【はじめに】
半側空間無視(USN)は,大脳半球病巣と反対側の刺激を発見・報告すること,反応すること,向くことの障害である。また,右半球における脳血管障害患者の約4割がUSNを併発し,後遺症のリハビリテーションが困難となる。我々は,USN患者における非無視側からの注意の「解放」と無視側への注意の「移動」を同時に支援するUSN治療支援システムを開発してきた。本システムの特徴は,可動スリットと呼称する視覚誘導映像により,非無視側の視覚刺激を徐々にブラックアウトしていき,見える領域を無視側へ拡大させていくことで注意を無視側に誘導するシステムである。本研究の目的は,3次元仮想空間内で可動スリットを構築し,近位(身体近傍空間)・遠位(身体外空間)および異なる課題における無視症状に与える影響を検証することである。
【方法】
回復期病棟に入院する左USNを呈する脳卒中患者10名(75.2±11.6歳)を本研究の対象とした。機器は,ヘッドマウントディスプレイ(Oculus Rift Development Kit 2, Oculus VR, Inc.),および手指モーションキャプチャ(Leap Motion, Leap Motion, Inc.)から構成される。仮想空間内の近位無視治療では,机の上の手指モーションキャプチャによる参加者の手の移動範囲内に3つのオブジェクトを設置した。参加者が自身の手を動かすことでVRの手を移動させることができ,VRの手が設置したオブジェクトに接触するように教示した。遠位無視治療では,部屋の奥の壁面に7つの視覚刺激を設置した。視覚刺激は,時間経過とともに順に左方へと点滅していき,点滅する刺激を回答させた。遠位・近位VR環境で注意を左方へ誘導するために,移動するスリットを付加し,患者が見える空間を徐々に左方へ誘導した。介入前後に近位,遠位空間におけるBITの4項目(線分抹消,線分二等分,星印抹消,文字抹消)を測定し,前後の点数をウィルコクソンの符号順位検定により比較した。有意水準は5%未満に設定した。
【結果】
介入前のベースラインでは近位・遠位空間におけるBITに有意差は認めなかった。遠位空間ではBIT合計(p=0.002),線分抹消(p=0.002),星印抹消(p=0.002),文字抹消(p=0.004)において前後間に有意差を認め,無視症状が改善した。一方,線分二等分線課題においては有意差を認めなかった。近位空間においては,全ての測定項目において前後間に有意差を認めなかった。
【結論】
本研究では3次元仮想空間内で右方空間をブラックアウトする注意誘導システムに基づき,遠位・近位空間無視の治療介入を実施した。結果として,遠位空間無視に改善を認めたが,近位空間および両空間の線分二等分線課題においては有効性を認めず,没入型仮想空間内での治療は,空間や課題特性により異なる影響が示された。臨床的には,環境設定が困難である遠位空間に対する介入として有望であるが,同時に近位空間における介入手法・システム設計が課題となった。
半側空間無視(USN)は,大脳半球病巣と反対側の刺激を発見・報告すること,反応すること,向くことの障害である。また,右半球における脳血管障害患者の約4割がUSNを併発し,後遺症のリハビリテーションが困難となる。我々は,USN患者における非無視側からの注意の「解放」と無視側への注意の「移動」を同時に支援するUSN治療支援システムを開発してきた。本システムの特徴は,可動スリットと呼称する視覚誘導映像により,非無視側の視覚刺激を徐々にブラックアウトしていき,見える領域を無視側へ拡大させていくことで注意を無視側に誘導するシステムである。本研究の目的は,3次元仮想空間内で可動スリットを構築し,近位(身体近傍空間)・遠位(身体外空間)および異なる課題における無視症状に与える影響を検証することである。
【方法】
回復期病棟に入院する左USNを呈する脳卒中患者10名(75.2±11.6歳)を本研究の対象とした。機器は,ヘッドマウントディスプレイ(Oculus Rift Development Kit 2, Oculus VR, Inc.),および手指モーションキャプチャ(Leap Motion, Leap Motion, Inc.)から構成される。仮想空間内の近位無視治療では,机の上の手指モーションキャプチャによる参加者の手の移動範囲内に3つのオブジェクトを設置した。参加者が自身の手を動かすことでVRの手を移動させることができ,VRの手が設置したオブジェクトに接触するように教示した。遠位無視治療では,部屋の奥の壁面に7つの視覚刺激を設置した。視覚刺激は,時間経過とともに順に左方へと点滅していき,点滅する刺激を回答させた。遠位・近位VR環境で注意を左方へ誘導するために,移動するスリットを付加し,患者が見える空間を徐々に左方へ誘導した。介入前後に近位,遠位空間におけるBITの4項目(線分抹消,線分二等分,星印抹消,文字抹消)を測定し,前後の点数をウィルコクソンの符号順位検定により比較した。有意水準は5%未満に設定した。
【結果】
介入前のベースラインでは近位・遠位空間におけるBITに有意差は認めなかった。遠位空間ではBIT合計(p=0.002),線分抹消(p=0.002),星印抹消(p=0.002),文字抹消(p=0.004)において前後間に有意差を認め,無視症状が改善した。一方,線分二等分線課題においては有意差を認めなかった。近位空間においては,全ての測定項目において前後間に有意差を認めなかった。
【結論】
本研究では3次元仮想空間内で右方空間をブラックアウトする注意誘導システムに基づき,遠位・近位空間無視の治療介入を実施した。結果として,遠位空間無視に改善を認めたが,近位空間および両空間の線分二等分線課題においては有効性を認めず,没入型仮想空間内での治療は,空間や課題特性により異なる影響が示された。臨床的には,環境設定が困難である遠位空間に対する介入として有望であるが,同時に近位空間における介入手法・システム設計が課題となった。