[P-SP-09-3] 投球動作における股関節の運動学的特性
野球経験者と非経験者の比較検討
Keywords:投球動作, 野球経験, 股関節運動
【はじめに,目的】
投球動作において,股関節運動は下肢で作られた力を体幹,上肢につなげるための要である。特に,ステップ脚の地面接地(sGC)から非ステップ脚の地面離地(nGO)では,体重移動によって次相の体幹,上肢運動を行うために重要であると報告されている。しかし,詳細な股関節運動に着目した報告は調べうる限り見当たらない。本研究は,投球動作中の股関節の角度,角速度について経験者と非経験者で比較し,投球動作中の股関節の運動学的特性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
計測データが確実に得られた野球経験男性8人(20.5±1.0歳,22.0±1.9kg/m2,右投げ8人)と非経験男性7人(21.7±0.7歳,21.0±1.2kg/m2,右投げ6人,左投げ1人)とした。全員,投球動作に伴う疼痛がなく,運動学的な疾患を有さない者であった。また,運動器疾患の治療中の者,医師から投球を禁止されている者はいなかった。投球動作の計測には三次元動作解析装置,床反力計を用いた。被験者は3回のシャドーピッチングを行った。計測時刻をsGCとnGOの2点とし,これらの時刻の股関節の3軸方向の角度を抽出した。その後,sGCからnGOまでの角度範囲と時間を算出し股関節の角速度を求めた。統計学的検討として,経験群と非経験群の2点における股関節の角度とsGCからnGOまでの時間について比較した。両群間に差が認められた角度について,角速度を2群間で比較した。Shapiro-Wilk検定の結果から正規性が認められた場合は対応のないt検定,認められない場合はMann-WhitneyU検定を用い,5%水準にて比較検討した。
【結果】
sGC時点では,経験群は非経験群に比べてステップ脚(s脚)の股関節外転角度(p<0.001),非ステップ脚(n脚)の股関節外転角度(p<0.05)が大きく,n脚の股関節内旋角度(p<0.01)が有意に小さかった。nGO時点では,経験群は非経験群に比べてs脚の股関節屈曲角度(p<0.01),n脚の股関節伸展角度(p<0.01)が有意に大きかった。sGCからnGOまでの時間を比較した結果,経験群は非経験群に比べて有意に短かった(p<0.05)。時間の差を緩衝するため,2群間に角度の差が認められたものについて,角速度を求め両群で比較した結果,経験群は非経験群に比べてs脚の股関節屈曲の角速度(p<0.01)と内転の角速度(p<0.001),n脚の股関節内転の角速度(p<0.001)が有意に速かった。
【結論】
本結果より,経験群ではsGCからnGOにかけて,股関節内転の角速度を速くすることで,体重移動距離を大きくしていることが明らかとなった。このことから,経験者では,sGCからnGOにかけてn脚からs脚へ効率良く体重移動を行い,次相の体幹,上肢運動につなげていることが示唆された。今後は投球動作を検討するために適切な上肢モデルを検討し,運動連鎖の視点から体幹,上肢を含めた投球動作を全身動作として検討する必要がある。
投球動作において,股関節運動は下肢で作られた力を体幹,上肢につなげるための要である。特に,ステップ脚の地面接地(sGC)から非ステップ脚の地面離地(nGO)では,体重移動によって次相の体幹,上肢運動を行うために重要であると報告されている。しかし,詳細な股関節運動に着目した報告は調べうる限り見当たらない。本研究は,投球動作中の股関節の角度,角速度について経験者と非経験者で比較し,投球動作中の股関節の運動学的特性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
計測データが確実に得られた野球経験男性8人(20.5±1.0歳,22.0±1.9kg/m2,右投げ8人)と非経験男性7人(21.7±0.7歳,21.0±1.2kg/m2,右投げ6人,左投げ1人)とした。全員,投球動作に伴う疼痛がなく,運動学的な疾患を有さない者であった。また,運動器疾患の治療中の者,医師から投球を禁止されている者はいなかった。投球動作の計測には三次元動作解析装置,床反力計を用いた。被験者は3回のシャドーピッチングを行った。計測時刻をsGCとnGOの2点とし,これらの時刻の股関節の3軸方向の角度を抽出した。その後,sGCからnGOまでの角度範囲と時間を算出し股関節の角速度を求めた。統計学的検討として,経験群と非経験群の2点における股関節の角度とsGCからnGOまでの時間について比較した。両群間に差が認められた角度について,角速度を2群間で比較した。Shapiro-Wilk検定の結果から正規性が認められた場合は対応のないt検定,認められない場合はMann-WhitneyU検定を用い,5%水準にて比較検討した。
【結果】
sGC時点では,経験群は非経験群に比べてステップ脚(s脚)の股関節外転角度(p<0.001),非ステップ脚(n脚)の股関節外転角度(p<0.05)が大きく,n脚の股関節内旋角度(p<0.01)が有意に小さかった。nGO時点では,経験群は非経験群に比べてs脚の股関節屈曲角度(p<0.01),n脚の股関節伸展角度(p<0.01)が有意に大きかった。sGCからnGOまでの時間を比較した結果,経験群は非経験群に比べて有意に短かった(p<0.05)。時間の差を緩衝するため,2群間に角度の差が認められたものについて,角速度を求め両群で比較した結果,経験群は非経験群に比べてs脚の股関節屈曲の角速度(p<0.01)と内転の角速度(p<0.001),n脚の股関節内転の角速度(p<0.001)が有意に速かった。
【結論】
本結果より,経験群ではsGCからnGOにかけて,股関節内転の角速度を速くすることで,体重移動距離を大きくしていることが明らかとなった。このことから,経験者では,sGCからnGOにかけてn脚からs脚へ効率良く体重移動を行い,次相の体幹,上肢運動につなげていることが示唆された。今後は投球動作を検討するために適切な上肢モデルを検討し,運動連鎖の視点から体幹,上肢を含めた投球動作を全身動作として検討する必要がある。