The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本スポーツ理学療法学会 » ポスター発表

[P-SP-09] ポスター(スポーツ)P09

Sat. May 13, 2017 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本スポーツ理学療法学会

[P-SP-09-4] 股関節外転運動の反復は大腿筋膜張筋と腸脛靭帯の硬度上昇を継続させるか

堤 省吾, 浦辺 幸夫, 前田 慶明 (広島大学大学院医歯薬保健学研究科)

Keywords:腸脛靭帯, 大腿筋膜張筋, 硬度

【はじめに,目的】

大腿筋膜張筋(Tensor fasciae latae:TFL)の収縮は腸脛靭帯(Iliotibial band:ITB)を伸張させ,硬度を上昇させることが考えられる。オーバーユースによるスポーツ障がいである腸脛靭帯炎は,陸上競技の長距離選手などに多く発症している。リスクファクターとして,走動作中に繰り返されるTFLの収縮に起因したITBの硬度上昇があげられる。先行研究では,反復した踵挙げ運動後の腓腹筋とアキレス腱の硬度を経時的に測定した結果,腓腹筋は24時間後まで,アキレス腱は15分後まで硬度上昇がみられた(廣野ら,2013)。このように反復した筋収縮と硬度上昇について,筋と連続性をもつ腱組織に着目したものはあるが,同様に連続性をもつ筋膜組織のITBに着目したものはない。反復したTFLの収縮がITBの硬度上昇をどの程度維持させるのかは,腸脛靭帯炎を予防する上で重要である。

本研究の目的は,反復した股関節外転運動によるTFLの収縮がTFL,ITBの硬度に与える経時的変化を明らにすることとした。


【方法】

対象は下肢に整形外科的疾患の既往のない健常男性8名(年齢22.3±1.0歳,身長171.5±3.7 cm,体重62.3±6.3 kg)の利き脚とした。運動内容はTFLの収縮を得やすい肢位を検討した先行研究(Joseph, et al., 2012)を参考に,左側臥位かつ右股関節最大外旋位での股関節外転運動とした。1セット20回とし,計5セット実施した。セット間には30秒の休息を設けた。十分な筋収縮を得るため,体重の3%に当たる重錘を下腿遠位部に装着して運動を実施した。硬度測定は,筋硬度計TDM-Z1(TRY-ALL社)を用い,運動前,終了直後,15分後,30分後,24時間後に行った。測定部位は,TFLは大転子より2横指前方,ITBは膝蓋骨上縁レベルとした。

統計学的分析にはSPSS 20.0 for windowsを使用し,運動前と各測定時の硬度比較には反復測定分散分析後,Tukey法による多重比較を行った。危険率5%未満を有意とした。


【結果】

全対象で,短期的な主観的な筋疲労の訴えがみられた。TFLの運動前の硬度(N)は0.74±0.03であり,運動直後,15分後,30分後,24時間後はそれぞれ0.98±0.09,0.91±0.07,0.87±0.08,0.91±0.05となり,運動前と比較して17.6%から32.4%の範囲で有意に上昇した(p<0.01)。ITBの運動前の硬度(N)は0.96±0.10であり,運動後はそれぞれ1.19±0.12,1.10±0.12,1.06±0.12,1.10±0.10となり,運動前と比較して10.4%から24.0%の範囲で有意に上昇した(p<0.01)。運動終了後において,TFL,ITBともに24時間後の硬度は15分後,30分後と有意差がなかった。


【結論】

股関節外転運動の反復によるTFLとITBの硬度上昇は,運動終了24時間後でも継続した。筋膜組織であるITBは,反復した筋収縮に伴う硬度上昇の影響が腱組織よりも大きい可能性が考えられた。これらの積み重ねが腸脛靭帯炎を惹起するため,予防には硬度上昇を24時間後まで維持させないことの重要性が示唆された。