第52回日本理学療法学術大会

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日本予防理学療法学会 » ポスター発表

[P-YB-01] ポスター(予防)P01

2017年5月12日(金) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本予防理学療法学会

[P-YB-01-5] 刑務所内での運動教室の実際

室井 宏育 ((一財)総合南東北病院リハビリテーション科)

キーワード:刑務所, 運動指導, 高齢化

【はじめに】わが国における急速な高齢化は様々な形で問題化しており,刑務所でも同様の問題が生じている。刑務所内活動を維持し円滑な社会復帰へ向け,福島刑務支所では,高齢者健康講座の一つとして健康運動教室を行っている。地域高齢者を対象にした運動指導は一般的に行われているが,刑務所内での運動指導の報告は見当たらない。そこで,今までの経験で得られた運動指導の要点等を明らかにし,今後,同じ環境下で活躍する理学療法士の一助になることを期待し以下に報告する。




【対象(方法)】福島刑務支所(東北管内で唯一の女子刑務所,収容定員は500名)内,70歳以上の女性受刑者を対象に月1回7名程度,40分間の運動教室を行う。なるべく同程度の運動機能を有する対象者の選定を依頼している。毎回参加者は異なっており,7名中約半数は膝や腰痛など運動器疾患を有している。その中には,不定愁訴や慢性疼痛を訴える者,認知面の低下が疑われる者も含まれている。脳血管障害や神経筋疾患を有する者,人工膝関節・人工股関節などの手術既往者はいなかった。




【運動教室の実際(結果)】介入初期,運動教室開始当初は,地域高齢者に対する運動指導(ストレッチや筋力強化など)と同じようなメニューを行っていた。しかし,自ら参加を希望し健康意識が高い地域高齢者と受刑者とでは,目的意識が著しく異なっており,運動指導を見直す必要性が生じた。そこで,以下の3パターンに分け指導内容を変更した。

・疼痛を有しない対象者に対しては,日々の作業環境を聞き,腰痛などの予防を中心に指導

・疼痛や筋力低下を有する対象者に対しては,疼痛の改善や筋力強化メニューを施行し個別に指導

・認知面の低下が疑われる対象者に対しては,理解力が乏しいため,同室の方々に対象者の運動メニューを指導し,運動してもらうようにアドバイザーを依頼

具体的内容としては,より実際的な立ち上がり,足踏み,歩行などにより,上記の3パターンのどれに当てはまるのかを確認しながら,運動指導をすすめた。また,対象者の居室環境を配慮し,ベッドか布団かなど環境に合わせた運動指導や自主練習が安全にできるメニューを提示した。なお,運動指導にあたっては,危険な症状が出現する可能性のあるレッドフラグサインを十分考慮した。




【結論】一般人口における高齢者比の増加以上に受刑者における高齢者比が増加していることが,わが国の特徴であると言われている。高齢になり身体的な能力や認知面の衰えによって,就労などの社会的活動に参加できなくなり,生活が困窮したり,社会的に孤立したりすることをきっかけに,社会的な不適応状態に陥って犯罪に走る現象がある。福島刑務支所での取り組みは,これらを予防出来る事業であり,我々理学療法士もその一端を担い,効果的な運動を提示する事により,少しでも社会貢献に寄与できるものと思われた。