第52回日本理学療法学術大会

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日本予防理学療法学会 » ポスター発表

[P-YB-08] ポスター(予防)P08

2017年5月12日(金) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本予防理学療法学会

[P-YB-08-2] 透析患者におけるサルコペニアと認知機能の関係

齊藤 浩太郎1, 鈴木 重行1, 杉浦 英志1, 景山 真知子2, 杉浦 江美2, 渡邊 龍憲1, 野嶌 一平1 (1.名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻, 2.名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻)

キーワード:透析, サルコペニア, 認知機能

【はじめに,目的】

透析患者におけるサルコペニア有病率は地域在住高齢者と比較して高く,サルコペニア群で身体活動量や身体機能が低下していることが報告されている(Hotta, et al., 2015)。しかし,透析患者におけるサルコペニア発症のリスク要因やメカニズム,認知機能,ADLなどを含めた包括的な検討はされていない。特に認知機能の低下及び認知症の発症は身体活動量が独立した要因であることが示されている。透析患者においては,透析のため臥床時間が比較的長いこと,また腎機能低下に起因する骨格筋量の減少や身体機能の低下に伴い,不活動時間が長くなり,認知機能低下のリスクが高くなる。そこで研究の目的を透析患者におけるサルコペニア有病者の特徴とリスク要因を明らかにすることとし,特に今回は認知機能面に着目し,予防の観点から,認知症発症のリスク因子となる軽度認知症の存在率に関しても検討した。


【方法】

歩行が自立した透析患者129名のうち,年齢が65歳以上で重度の認知機能の低下や失語症のない91名を対象に,年齢,性別,体組成,握力,片脚立位保持時間,下腿周径,歩行速度,認知機能(Moca-J),老研式活動能力指標,KDQOL,転倒歴,薬剤使用,既往歴,透析期間,標準化透析量,%クレアチン産生速度,栄養状態,タンパク質異化率,を評価項目として測定を行なった。サルコペニアの診断はEWGSOPの基準を使用し,対象をサルコペニア群,非サルコペニア群の2群に分け,各評価項目をMann-WhitneyのU検定およびカイ二乗検定を用いて比較した。その後,軽度認知症(MoCA-Jスコア25点以下)の有無を従属変数,サルコペニアの有無を説明変数,調整変数を性別,年齢としたロジスティック回帰分析を実施した。


【結果】

サルコペニアの有病率は72.6%であり,サルコペニア群は有意に年齢が高かった。またサルコペニア群において,体重,握力,片脚立位保持時間,下腿周径,歩行速度,MoCA-J得点,老研式活動能力指標(手段的,社会的,総合),KDQOLの得点が有意に低下していた。ロジスティック回帰分析の結果,サルコペニアを有する透析患者における軽度認知症のリスクはサルコペニアでない患者の8.37倍であった。(調整済みオッズ比=8.37)。


【結論】

サルコペニアを有する透析患者では,先行研究同様身体機能の低下が認められた。また,サルコペニアを有していることが認知機能低下に独立して関係していた。一方,透析患者でもサルコペニアを発症していない群では認知機能が高いレベルで保たれていたことやIADLの手段的項目や社会的項目の点数が高かったことから,認知機能を維持し,社会的な関わりやセルフケアを十分に行えていることが,サルコペニア発症予防に重要であることが考えられた。透析患者において,早期の認知機能低下の発見,日常生活活動の状況把握とそれらの対策を講じることが,その後の重症化を防ぐために必要であることが示唆された。