第6回日本地域理学療法学会学術大会

講演情報

一般口述

訪問・通所1

[O] 一般口述8

2019年12月14日(土) 17:40 〜 18:40 第2会場 (東館2階 セミナー室)

座長:桑山 浩明(介護老人保健施設 ローランド 訪問リハ)

[O-047] 地域復帰を促進させるための歩行自立の判断基準
脳血管障害者

*楠元 陽士1 (1. 通所リハビリテーションセンター清雅苑)

キーワード:脳血管障害、歩行自立、身体機能評価

【はじめに・目的】
在宅生活期にある脳血管障害者の地域復帰には,歩行自立は大きな影響を与える.今回,当通所リハビリテーション事業所(当苑)利用者の歩行が,生活の足となり地域復帰に繋がるための歩行自立の判断基準を設けることを試みた.
【方法】
対象は以下の条件を満たす脳血管障害利用者42名である.①当苑を1年以上継続利用している.②過去1年間当苑で転倒歴がない.③通所リハビリプログラムで1本杖歩行が自立,監視で可能である.その内当苑利用中の移動手段が,常時杖歩行22名,場所により車椅子利用20名である.歩行自立の判断基準の測定項目として歩行の耐久性の評価を6分間歩行距離;6-minutes walking distance(以下,6MD),安定性の評価にTimed Up and Go Test(以下,TUG)を用いた.分析は当苑の移動手段を目的変数,説明変数に6MDとTUGとして,二項ロジスティック回帰分析にて分析し,その結果よりROC曲線にてカットオフ値を設定する.
【結果】
二項ロジスティック回帰分析の結果,6MD(オッズ比:1.009,95%信頼区間:1.003-1.015,p=0.003),TUG(オッズ比:0.911,95%信頼区間:0.853-0.972,p=0.005)ともに有意な変数として選択された.ROC曲線より得られたカットオフ値は,6MDが158.5m(曲線下面積:0.822,感度:95.0%,特異度:63.6%),TUGが22.33秒(曲線下面積:0.877,感度:95.0%,特異度:77.3%)であった.
【結論】
本研究では,脳血管障害利用者の歩行自立の判断基準は,6MDでは158.5m,TUGでは22.33秒であり,双方のカットオフ値を上回ることで歩行自立と判断・予測できる要素となることを明らかにした.中村らは,回復期脳卒中片麻痺患者における歩行自立に必要なカットオフ値を,6MDは200m,TUGは18.8秒と報告している.本研究対象者は回復期から生活期に移行して1年以上経過している者である.在宅生活では,院内のように整備された移動環境に比べて坂道や狭い空間など,接地不良な環境も多いため歩行スピードよりも安定性を重視した歩行を習慣とする傾向にあると考える.そのため,生活期における歩行は,速い歩行でなくても自立することができると考える. また,我々は先行研究において,当苑利用者の半数に自宅と当苑における移動手段の乖離が認められることを報告した.その要因として,大規模事業所での移動は移動空間が広いことと生活用品等の物を持って移動する必要があり,自宅での移動と比べて利用者の歩行耐久性や安定性が影響していると考えられた.先行研究で耐久性や安定性が問題点として挙げられた利用者も,今回のカットオフ値をもとに問題点を明確化することができる.身体機能の問題なのか,個人因子,環境因子なのかを明確にすることで,身体機能向上の促進や活動意欲の向上につながり,地域復帰をスムーズに行えると考える.今後は,今回算出されたカットオフ値を指標とし介入していく事で,地域復帰に繋がる目標設定,目標達成するための取り組みを明確にし,利用者のQOL向上に貢献していきたい.

【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は当施設倫理委員会の承認を得て実施した.対象者には口頭および書面にて本研究の目的や方法を十分に説明し承諾を得た.