第6回日本地域理学療法学会学術大会

講演情報

一般口述

訪問・通所4

[O] 一般口述13

2019年12月15日(日) 14:50 〜 15:50 第2会場 (東館2階 セミナー室)

座長:上野 浩司(社会福祉法人 長浜市社会福祉協議会 介護事業課)

[O-077] 慢性期脳卒中者における視覚的手がかりを用いた歩行練習が及ぼす短期的効果
無作為化比較対照試験

*橋立 博幸1、澤田 圭祐2、鈴木 友紀3、笹本 憲男4 (1. 杏林大学保健学部理学療法学科、2. 医療法人笹本会おおくに訪問リハビリテーション、3. 医療法人笹本会グループホームおおくにの家、4. 医療法人笹本会やまなしケアアカデミー)

キーワード:慢性期脳卒中、歩行、視覚的手がかり

【はじめに・目的】
地域在住の慢性期脳卒中者において歩行能力の維持・改善・向上は重要な目標である。これまでに複数の歩行練習の有用性が報告されてきているが、地域在住の慢性期脳卒中者における歩行練習の効果は十分に検証されていない。本研究では、慢性期脳卒中片麻痺者において特別な機器を要さず簡便に実施可能な視覚的な手がかりを用いたラインステップ(LS)歩行練習が歩行速度に及ぼす短期的な効果を検証することを目的とした。
【方法】
対象は通所リハビリテーションを利用する慢性期脳卒中片麻痺者30人(平均年齢69.2±5.7歳、脳卒中発症からの平均期間87.1±39.8月)であり、非麻痺側下肢LS歩行群、麻痺側下肢LS歩行群、通常歩行練習群(対照群)の3群に10人ずつ無作為に割り付けた。各群ともに施設利用時において提供される施設内での60分間の運動プログラム(関節可動域運動、筋力増強運動、持久性運動)に加え、非麻痺側下肢LS歩行群および麻痺側下肢LS歩行群では麻痺側下肢または非麻痺側下肢LS歩行練習を、対照群では特別な教示を用いない歩行練習を、それぞれ付加的に10分間/回、1~2週/回、4週間実施した。LS歩行練習では、歩行路の直線進行方向に沿って床面に直線ライン状の目印となるテープを貼り、対象者に「非麻痺側(または麻痺側)の足でラインを踏みながらできるだけ速く直線進行方向へ歩いてください」と教示して往復直線歩行を実施した。初回評価時および1か月後において、通常歩行速度、最大歩行速度、日常生活活動の自立度(functional independence measure)および活動量(離床時間、home-based life-space assessment、life-space assessment)を調査し、介入期間前後の各成績を比較した。
【結果】
初回評価時における基本属性と歩行速度に有意な群間差は認められなかった。2元配置分散分析の結果、介入期間前後において通常歩行速度および最大歩行速度に有意な主効果と交互作用が認められ(p<0.05)、通常歩行速度は非麻痺側LS群(前0.6±0.2m/s、後0.7±0.3m/s)および麻痺側LS群(前0.5±0.3m/s、後0.6±0.5m/s)において有意に増加し、最大歩行速度は非麻痺側LS群(前0.7±0.3m/s、後0.8±0.3m/s)のみに有意な増加が認められた。対照群は通常歩行速度および最大歩行速度のいずれにおいても有意な変化は認められなかった。また、1か月間の介入期間中に有害事象発生者や中途脱落者は生じず、日常生活活動および活動量の各指標は各群ともに介入期間前後の有意な変化は認めなかった。
【結論】
慢性期脳卒中片麻痺者に対する非麻痺側下肢および麻痺側下肢ラインステップ歩行練習は、歩行速度を短期的に増加させる可能性があることが示唆された。本研究で検証した歩行練習は臨床的にも簡便かつ安全に実施可能であり、一般的に障害の改善が得られにくいとされる慢性期脳卒中者の歩行能力改善を図る効果的・効率的な歩行練習方法になりえると考えられた。

【倫理的配慮、説明と同意】
本研究の実施に際して、対象者または家族介護者に対して研究概要を事前に説明し同意を得た。なお、本研究は杏林大学保健学部倫理委員会の承認を得て実施した。