[P-47] 施設に入所している認知症高齢者の行動・心理症状は、転倒の予測因子になりうるか
キーワード:認知症の行動・心理症状、認知症高齢者、転倒
【はじめに・目的】
認知症の行動・心理症状を評価する場合、これまでの研究ではスコア化した総合得点で評価している研究が多かった。しかし、認知症の行動・心理症状は種類が多く、ケースごとに出てくる症状も様々であるため、我々は、認知症の行動・心理症状をそれぞれ独立した症状として捉え、そのリスクを評価することで、より具体的な転倒のアセスメント及び防止に繋がると考えた。本研究は、介護老人保健施設に入所している認知症高齢者を対象に、入所時の認知症の行動・心理症状の各症状の有無が、その後の転倒の予測因子になりうるかを検討した。
【方法】
福島県内にある3つの介護老人保健施設を対象施設として、後ろ向きコホート研究にて行った。2013年5月から2014年11月までの期間に入所した305名のうち、長谷川式スケール20点以下の242名(男性74名、女性168名)を解析対象とした。調査項目は性、年齢、身長、体重、長谷川式スケール、要介護度、移動手段、日常生活動作、睡眠薬・精神安定剤内服の有無、麻痺の有無、骨関節疾患の有無、入所前の生活空間、過去の転倒歴、および認知症の行動・心理症状とした。認知症の行動・心理症状の項目は、介護認定調査票第4群の15項目を用いた。個人要因と転倒の有無について、連続変数については平均値および標準偏差を計算し、studentのt検定により比較した。カテゴリ変数については度数および割合を計算し、カイ2乗検定により比較した。入所時の認知症の行動・心理症状の各項目が転倒と関連があるかCox比例ハザードモデルを用いてハザード比および95%信頼区間を計算し、分析した。
【結果】
非転倒者は153名(63.2%)、転倒者は89名(36.8%)であった。対象者の特徴として移動手段では車いす使用者が72.3%であった。転倒有無に対して、有意差がみられた項目は要介護度(p=0.027)、日常生活動作(p=0.001)、過去1年以内の転倒の有無(p<0.001)であった。性、年齢、および単変量分析にて転倒と有意な関連を示した要介護度、日常生活動作、過去の転倒歴を調整したうえで、認知症の行動・心理症状が転倒に与える影響をみたところハザード比(95%信頼区間)は‟一人で外出したがる”2.23(1.35-3.68)、‟自分勝手に行動する”1.94(1.24-3.04)の行動症状2項目で有意に上昇した。
【結論】
入所時に‟一人で外出したがる”、‟自分勝手に行動する”の認知症の行動・心理症状がみられた者は転倒の危険性が高いため、転倒の可能性を早期に予測し、見守りや環境調整など十分な注意や対応が必要である。認知症の行動・心理症状について、個々の症状から転倒について分析をすることで、具体的な行動症状が転倒リスクの一因に寄与していたことが分かった。
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は福島県立医科大学倫理委員会(承認番号1188)において承認された。
認知症の行動・心理症状を評価する場合、これまでの研究ではスコア化した総合得点で評価している研究が多かった。しかし、認知症の行動・心理症状は種類が多く、ケースごとに出てくる症状も様々であるため、我々は、認知症の行動・心理症状をそれぞれ独立した症状として捉え、そのリスクを評価することで、より具体的な転倒のアセスメント及び防止に繋がると考えた。本研究は、介護老人保健施設に入所している認知症高齢者を対象に、入所時の認知症の行動・心理症状の各症状の有無が、その後の転倒の予測因子になりうるかを検討した。
【方法】
福島県内にある3つの介護老人保健施設を対象施設として、後ろ向きコホート研究にて行った。2013年5月から2014年11月までの期間に入所した305名のうち、長谷川式スケール20点以下の242名(男性74名、女性168名)を解析対象とした。調査項目は性、年齢、身長、体重、長谷川式スケール、要介護度、移動手段、日常生活動作、睡眠薬・精神安定剤内服の有無、麻痺の有無、骨関節疾患の有無、入所前の生活空間、過去の転倒歴、および認知症の行動・心理症状とした。認知症の行動・心理症状の項目は、介護認定調査票第4群の15項目を用いた。個人要因と転倒の有無について、連続変数については平均値および標準偏差を計算し、studentのt検定により比較した。カテゴリ変数については度数および割合を計算し、カイ2乗検定により比較した。入所時の認知症の行動・心理症状の各項目が転倒と関連があるかCox比例ハザードモデルを用いてハザード比および95%信頼区間を計算し、分析した。
【結果】
非転倒者は153名(63.2%)、転倒者は89名(36.8%)であった。対象者の特徴として移動手段では車いす使用者が72.3%であった。転倒有無に対して、有意差がみられた項目は要介護度(p=0.027)、日常生活動作(p=0.001)、過去1年以内の転倒の有無(p<0.001)であった。性、年齢、および単変量分析にて転倒と有意な関連を示した要介護度、日常生活動作、過去の転倒歴を調整したうえで、認知症の行動・心理症状が転倒に与える影響をみたところハザード比(95%信頼区間)は‟一人で外出したがる”2.23(1.35-3.68)、‟自分勝手に行動する”1.94(1.24-3.04)の行動症状2項目で有意に上昇した。
【結論】
入所時に‟一人で外出したがる”、‟自分勝手に行動する”の認知症の行動・心理症状がみられた者は転倒の危険性が高いため、転倒の可能性を早期に予測し、見守りや環境調整など十分な注意や対応が必要である。認知症の行動・心理症状について、個々の症状から転倒について分析をすることで、具体的な行動症状が転倒リスクの一因に寄与していたことが分かった。
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は福島県立医科大学倫理委員会(承認番号1188)において承認された。