日本デザイン学会第71回研究発表大会

オーガナイズドセッション

 
基礎情報

本年度のオーガナイズドセッションは、以下の6件を予定しています。

 
6月22日(土)
  • 情報環境 × ソーシャルデザイン(開催校企画)
  • ここちよい近さ(近接)と近接のデザイン
  • テクノロジーの進展に伴うプロトタイピングの民主化と活用方法

6月23日(日)
  • WHY 人間「性」中心デザイン?:私たちは人間中心デザインの道を抜け、人間「性」中心デザインの原野に立てるのか
  • ホリスティック・システムデザインの提案
  • 宇宙デザイン学



 

6月22日(土)15:00〜17:00

オーガナイズドセッション1

情報環境 × ソーシャルデザイン
 
オーガナイザー 井上 貢一 
九州産業大学 芸術学部  ※ 開催校企画       
 
パネリスト
池田 美奈子 氏 IIDJ
岩田 敦之 氏 九州産業大学 芸術学部 ソーシャルデザイン学科
佐伯 和広 氏   (株)QTnet YOKAプロ AI事業グループ長
一般社団法人生成AI活用普及協会 協議員


概 要:

 私たちを取り巻く環境要素のひとつに「情報」があります。このセッションでは、環境というものを自然環境と人工環境に区別した上で、その人工環境の主軸が物質環境から情報環境へとシフトしつつあること、またさらに、その情報環境が仮想世界を含んで無限に拡大しつつあると捉えた上で、それがどのような社会的問題を生み出しているのか、またそれを解決すべく、デザインに何ができるのかについて考えます。
 物質・エネルギー・情報、いずれもその過剰な豊さは、管理・制御・廃棄にかかわる多くの課題を生み出しています。また、コンピュータとインターネットを前提とした今日の情報技術は、時間と空間を超越することを可能にしたと同時に、仮想空間上のアカウントという「もうひとりの私」の存在を可能にしました。情報環境の急激な変化が社会の硬直化と疲弊を招くとともに、「私」の存在自体が物質的基盤から遊離したことで、従来の社会システムが機能不全に陥っているように感じます。
 
このセッションでは、「生成AIの普及とその影響 - 生成AIとデザインの交差点」、「地域におけるこれからの視覚情報伝達デザイン」、「テクノロジーとの共生−ヒューマニティとデザイン」、3つの切り口で現代社会を俯瞰しつつ、社会の未来をデザインするための方法を探ります。

 

 

オーガナイズドセッション2

「ここちよい近さ(近接)」近接のデザインはまち(地域/都市)、ケア、企業、デジタル、経済を変えるのか?
 
オーガナイザー 山﨑 和彦
Xデザイン研究所、
武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所
 
パネリスト
安西 洋之 氏 モバイルクルーズ  ※オンライン参加   
本條 晴一郎 氏 東京工業大学
森 一貴 氏 参加型デザイナー
澤谷 由里子 氏 名古屋商科大学
山縣 正幸 氏 近畿大学


概 要:

 パンデミックによって、私たちの生活に大きな変化がありました。オンラインサービスの充実やリモートワークの普及によって、自分の家にとじこもる生活スタイルも一般的になったのも、その一つです。さて、これからの私たちの生活を考えてみると、「ふれあうこと」や「近くにいること」が大事なことに気づきます。そのようなアプローチの基本となるのが「ここちよい近さ(近接)」です。この視点は、まち、地域、都市、ケア、コミュニティ、デジタル、経済、デザインへの見方を変えてゆくでしょう。このような視点にヒントを与えてくれる。エツィオ・マンズィーニ(ミラノ工科大名誉教授)の著「Livable proximity -- ideas for the city that cares」の日本語版である「ここちよい近さがまちを変える ケアとデジタルによる近接のデザイン」も出版されました。
 ここでは、「ここちよい近さ(近接)」という視点で、近接とは何か、近接のまち/地域/都市、近接のシステム、近接とケア、近接とコミュニティ、近接の経済、近接のためのプラットフォーム、近接のためのデザインなどについてパネリストに話題提供してもらいます。そして「ここちよい近さ(近接)」について、ディスカッションをします。

 


オーガナイズドセッション3

テクノロジーの進展に伴うプロトタイピングの民主化と活用方法
 
オーガナイザー 三冨 敬太
S&D Prototyping株式会社、
慶応義塾大学 大学院
システムデザイン・マネジメント研究科 研究員 
 
パネリスト
新井 モノ 氏  AiHUB株式会社 代表取締役CTO /
AIアーティスト / エンジニア
草野 孔希 氏 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
特任講師 / mercari R4D リサーチャー / 博士(SDM学)
久野 崇文 氏 日本テレビホールディングス株式会社 経営戦略局R&Dラボ
本美 勝史 氏 株式会社リコー デジタル戦略部
デジタル戦略・人材統括センター 戦略・人材統括室
リコーを芯からアジャイルにするTF/
社内ファブスペース「つくる~む海老名」運営
阿部 菜々子 氏 アクセンチュア株式会社
Droga5 Tokyo, Part of Accenture Song


概 要:

 「つくりながら考える」手法であるプロトタイピングは、デザイン思考やリーンスタートアップなどの新規事業創出法で必須のプロセスとして民間で用いられています。また、学術分野においても、Design Research Societyの部会のEKSIG2023のカンファレンスのテーマはPrototype & Prototypingであるなど、重要視されています。この背景として、3Dプリンタや生成AIの進化などにより、プロトタイピングに必要な技術のハードルが下がり、ある種の「民主化」がされていることが挙げられます。例えば、今までは「プロのデザイナー」に依頼する必要があったプロトタイプに用いる画像データを、誰でも生成することができ、プロトタイプの制作工数を圧倒的に削減できるのです。さらには、OpenAIが発表した動画生成AIを活用できるようになれば、動画の制作工数も削減できるでしょう。このインパクトは大きく、デザイナーやエンジニアではない、ある種今までものづくりとは無縁だった方々が新しいものをつくり、生み出していく流れが生まれていく可能性があります。
 このような現状を踏まえて、民間とアカデミアの有識者を招き、新しいテクノロジーについての知見を得ながら、民主化されたプロトタイピングをどう活用するべきかを議論します。


 

6月23日(日)15:00〜17:00

オーガナイズドセッション4

WHY 人間「性」中心デザイン?:私たちは人間中心デザインの道を抜け、人間「性」中心デザインの原野に立てるのか
 
コーディネータ 横溝 賢
札幌市立大学 博士(工学)
土地の記憶と語りを描き出すランブリングデザイン運動中 
元木 環
公立はこだて未来大学 博士(美術)
滋賀県仰木の地蔵プロジェクト実践者 
 
パネリスト
Donald A. Norman Nielsen Norman group(ビデオ・レター出演)
宮田義郎 中京大学 心理学Ph.D
D.A.ノーマン氏とは心理学の師弟関係
尾関智恵(オゼキサン) 岐阜大学 高等研究院航空宇宙生産技術開発センター 博士(工学)
 メタバース世界の社会的アフォーダンス構築中
上芝智裕 中京大学 アーティスト
コンピューテーショナルデザイン研究
佐々木皓大 公立はこだて未来大学 情報デザインコース(2023年度卒)
学校を飛び立ち、社会の中で自分の居場所を模索するDIY実践者
伊藤悠貴 札幌市立大学 デザイン研究科 修士2年
岩手県姉帯地区にて400年続く農家の末裔
浅川仁都 中京大学 工学研究科 修士1年
食資源循環における社会的および生態学的アフォーダンス
ラスク ガブリエル 中京大学 工学研究科 修士1年
食資源循環による地域コミュニティ構築


概 要:

 うっかり出し損ね行き場を失ったゴミ袋を手にした時、自分が「生ゴミは捨てるもの」という信念を抱えていることに気づかされる。効率的回収システムという人工物が生み出す社会的アフォーダンスに囚われた我々には、行為がゴミ処理地域の環境汚染や健康問題へと繋がっている現実は見えず、個人も企業も責任を取らないことは不文律となっている。しかし社会や生態系の破壊をもたらしている〈習慣〉〈信念〉〈行為〉が、人間の感性を人工的に形づくるデザインの副作用であるなら、それらもまた自然的人間の感性に基づく性質に沿ってリデザインできる可能性があるのではないか。
 アフォーダンスに基づく人間中心デザインを提唱してきたノーマン氏は近著「より良い世界のためのデザイン」でその視座を〈人間性中心のデザイン〉へと拡張し、デザインの民主化を説いている。これは情報デザイン研究部会で探求してきた、人々の自立共生を形づくっていくデザインの取組みとも通底している。
 本セッションでは、ノーマン氏と環境やコミュニティ、教育をフィールドとするパネリストが各々の社会実践をもちより、人間「性」を中心とするデザイン知の原野を協働的に描き出すことを試みる。

本OSは日本デザイン学会情報デザイン研究部会と認知科学会との共創企画(日本認知科学会第41回大会OS【人間中心から人間「性」中心デザインへ:Donald A. Normanと戸田正直の足跡を辿る】https://www.jcss.gr.jp/meetings/jcss2024/os.html)として準備を進めている。6月のデザイン学会OSにて、ノーマン氏と実践研究に潜む人間「性」中心のデザイン知を読み解き、このOSの問いを9月の認知科学会に受け渡し、AIを含む生態系と自立共生できる創造的な行為の知のはたらきについて議論する。デザイン学会と認知科学会の連携議論は特集号等論文にまとめ、実践と科学の融和を生み出すコミュニティの礎を創りたい。

 
 

オーガナイズドセッション5

ホリスティック・システムデザインの提案
 
オーガナイザー 山岡 俊樹
和歌山大学名誉教授           
 
パネリスト
篠原 稔和 氏 ソシオメディア株式会社 代表取締役、
NPO法人 人間中心設計推進機構理事長
坂口 和敏 氏 山口大学国際総合科学部 准教授
安井 鯨太 氏 デザイン人間工学研究会


概 要:

 21世紀に入り,社会全般でパラダイム変換が起きています.大きな流れとして機械論から生命論(全体論,主客一体,性質・意味,円環的因果律など)への変換です.以下,これからのベクトルを示します.
①近代化(モダニズム)の考え方の終焉
②多様化,許容化のうねり
③デザインの中心性の喪失
④デザインの領域の拡大 →脱モノ・コトの世界からビジネスシステムへ
⑤デザイナーの多様化
 以上の5つのベクトルから,以下の新たなデザインの骨組み提案をします.
①ホリスティック・システムデザインの考え方と方法の提案
機械論の手法として,システム方法がありますが,生命論の「全体論」と「主客一体」の視点からシステム方法を見直し,有機的なホリスティック・システムデザインの考え方と方法を提案します.デザインだけでなく,ビジネスなどの幅広いシステムに活用できる方法です.
②新しい価値の提案
価値創造がデザインの主な役割になります.豊かな生活の実現や自然環境の回復などのデザインの新たな価値を体系的に提案します.
③新しい人材教育の提案
従来の体験教育だけでなく,論理教育や知識も重要で,左脳と右脳のバランスが取れたデザイン及びビジネスの人材教育を提案します.
④新しいデザインマネジメントの提案
ホリスティックな視点からビジネスなどの様々な分野でも活用できるデザインマネジメントを提案します.

 


オーガナイズドセッション6

宇宙デザイン学
 
オーガナイザー 中川 志信
名古屋市立大学大学院芸術工学研究科
芸術工学部産業イノベーションデザイン領域  
 
パネリスト
松本 聡 氏 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構
有人宇宙技術部門 有人宇宙技術センター 主任研究開発員、
筑波大学 システム情報系 教授(連携大学院)、博士(工学)
今村 勇気 氏  栗田工業株式会社イノベーション本部
宇宙の水プロジェクトグループ開発課
野口 慶伍 氏 栗田工業株式会社イノベーション本部
宇宙の水プロジェクトグループ設計課


概 要:

 宇宙時代が本格化する中、本質を突いた宇宙デザインの体系化が必要です。名古屋市大中川志信研究室では、ISS宇宙ステーションに実験用として搭載する水再生装置を研究開発した栗田工業と産学連携を行い、次世代水再生装置のデザインを共同研究しました。
 調査分析を通して、低重力空間で多様な作業をこなし無機的な環境で長期の生活をする宇宙飛行士は、想像以上にストレスの大きいことが理解できました。
 
これらの課題解決をデザインした次世代水再生装置システムとその周辺機器の提案を、JAXA研究員に検証した結果、JAXAでもない課題解決の視点と高評価をいただきました。
 
これら一連の研究からの気づきとして、地上ではあまり意識しない自然現象の原理(例えば、表面張力)を深く考察して、微小重力環境下で最適化するデザイン思考が有効ではないかと考えています。
 
このように宇宙デザイン研究はまだ緒に着いたばかりですが、これら一連の研究を紹介して皆様と議論する計画です。